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第10話
つまらない授業がようやく終わると同時に、約束の時間だけが刻一刻と近づいてしまっていた。
「どうする。この契約を解除する方法はないのか?」
久々自販機の缶コーヒーというものを購入し、その苦みを噛みしめながら脳にカフェインを投入していく。
「一番確実な方法は、もう一度奴と勝負し。そして俺が勝つことだが……多分それは無理だ。奴は俺よりも強い。そこはもう認めるしかない」
ベンチに重い腰を下ろし。コーヒーをすすりながら、ガリガリと飲み口に歯を立てる。
大体あんな魔術師が日本に存在していたなんて聞いたことが無い。
魔力を吸い取ってもあれだけの魔術が使えていたなら、魔力判定もA判定だったのだろう。
そもそも奴には謎が多すぎる。
あの強さもそうだが、何故俺を抱こうとしたのかも分からん。嫌がらせ……にしても普通男を抱こうとするか?それとも元々男が好きとかそういうのだろうか?
大体、何故他の奴等には猫をかぶっているのかも謎だ。俺には本性を出してきたが、毎日毎日外で作り笑いするのも疲れるだろう。だから女共も狙われるんだ。男が好きなら少しは嫌なそぶりを見せればいいものを……。
「って、そこはどうでもいいだろう!!アイツがモテようとモテまいと俺の知ったことか!!」
気持ちが動揺してしまったせいか、右手に持っていた缶コーヒーはいつのまにか潰れており。残った中身が、指の隙間からポタポタと零れて落ちていた。
「……チッ。この俺としたことが」
「なんだぁ?珍しく荒れてんなぁ~~レンフォートのお坊ちゃん」
「あ?」
いつのまにか俺の目の前に立っていた無精ひげの男は、煙草を口に咥えたまま気怠そうな目で俺を物珍しそうに見ていた。
「授業にも珍しく出てたし。あの日本人に負けてから心機一転したのか?」
「なわけないだろう。次この俺を馬鹿にすれば、ここの理事長でも問答無用で消すぞ」
「おぉ怖い怖い」
この魔術学校で十年以上もの長い間、理事長をしているルーベン・エバンズ。見ての通りこの学校を支える男には見えない風貌と口調。魔術の強さもあまり知られていない。
謎が多い男で、何故かこうして俺に絡んでくる変や奴だ。
「それで?この俺になにか用でも?」
「別に用事ってほどでもないが。ただ一部で出回っている噂の正体を、君にもお願いしようと思ってね」
「噂?」
「あぁ。この学校に『魔法使いが忍び込んでいる』という噂さ」
「魔法使い……だと」
魔法使い。
それは魔術師にとっての天敵だ。
魔術師である俺達は、自分の中に宿る魔力を使っているが。魔法使いは魔力を持たないかわりに自然界に宿る力を使っている。
だから魔力切れになることも無ければ、俺の様な上級魔術師よりも強い力を使う事が出来る。それこそまさに奇跡に近いことさえも……。
「しかし、魔法使いは既に絶滅したと聞いていたのだが」
「一人残らず消えているかどうかなんて、誰も確認出来るわけないだろ?」
それもそうだ。
魔法使いも派手な事をしない限り、俺達魔術師となんら変わらない。身を隠すことも容易いだろう。
「派手な事……」
ふと、突然現れた転校生の姿が頭をよぎる。
上級魔術師であるこの俺を完膚なきまでに叩きのめしたあの男。
「サトウユウジ……まさかアイツ」
いやいや。アイツが本当に魔法使いなら流石に阿保すぎだ。
ここに身を隠しているのなら、あんな目立つようなことはしないだろう。
「だが……アイツがもし魔法使いだとしたら、あのブレスレットが効かなかったのも頷ける」
「おーーい。聞いてるか?」
「?悪い聞いていなかった。なんだ」
「たくっ。とりあえず、なにか分かったら俺に必ず報告しろよ?魔法使いが何を企んでるかは知らないが、この学校になにかする前に対処しとかないといけないからな」
「……まさか俺に、魔法使いを探せと?」
「さっきからそう言ってるじゃないか?」
「そういうのは教師や理事長の仕事では?」
「大人は忙しいんだよ」
「俺も忙しい」
「まぁそう言わずにさぁ~~。それに、レンフォートの坊ちゃんなら魔法使いが相手でもなんとか出来るでしょ?強いし、最強だし?」
俺の肩に馴れ馴れしく腕を組んでくる理事長だが「この俺なら、魔法使い相手でも引けを取らない」と言うのなら仕方あるまい。
「ふんっ。そうだな。魔法使いが相手なら、任せられるのはこの俺しかいないだろう」
「そうそう。ってなわけで頼んだよ。レンフォートの坊ちゃん」
最後に肩をぽんぽんと叩くと、理事長はそそくさと俺に背を向けて去っていった。
なんだか言いくるめられたような気もするが……。
「まぁ一週間ぶりにいい思いもしたし、今日はこのまま部屋で年代物のワインでもあけて楽しむとするか」
と、思っていたのだが。
「な、なんだこれは……」
戻ってきた俺の寮の扉は粉々に壊されており、部屋の中は荒らされ、保管していたワインは全て割られてしまっていた。
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