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第12話
よく見ると、カラスの目の前には小さな光がふよふよと虫の様に飛び交い、視線を生徒から離していく。
「オイ!!俺の魔力だろう!!そんなものになに気を取られているんだ!!」
しかし俺の魔力で出来ているはずのカラスは、何故か俺の言う事を聞かず。生徒から離れて光を追いかけてしまう。
あの光が何なのかは関係ない。
ただ、あんなことを出来るのは一人しかいない。
「俺の邪魔をするな。サトウユウジ」
こちらに近づいてくる気配の方へ目を向けると、案の定微笑みを浮かべるサトウユウジと、正義感だけの家畜。そして胸だけ女がいた。
「ここで僕が止めてないと、本当に死ぬところでしたよ?あの人」
「そのつもりだ」
「駄目ですよ。貴方がここに居られなくなってしまいますからね」
そう言うと、サトウユウジはパンッと手を叩いた。
それを合図に、小さな光は一気に俺達を包み込むほど大きく眩しい光を放つ。
次第に光はおさまっていき、ゆっくり目を開けると、カラスの姿はなくなってしまっていた。
光に飲み込まれたのか、かき消されたのかは知らないが。こんな魔術は見たことが無い。
俺もそうだが、周りの奴等も驚きを隠せていなかった。
「……貴様は一体なんなんだ」
理事長に聞かされた話が頭をよぎる。
ーー魔法使い。
サトウユウジは、もしかすると本当に……。
「僕は貴方と同じ。ただの魔術師ですよ。」
「……ふん。まぁいい。貴様が何者でもこの俺が」
「まだそんなことを言っているのかブラッド・レンフォート!!いいかげん魔術で誰かを傷つけるのは止めろ!!」
「黙れ!!俺の話を遮るな!!この家畜が!!」
いつもの家畜の正義感ぶった言葉のせいで、俺は再び敵視が向けられる。
さて。サトウユウジと、雑魚の魔術師が数人。
もしも一斉に攻撃を食らえば、さすがの俺でも対処しきれないかもしれない。
だがこのまま「すみませんでした」と、頭を下げるのだけは絶対にごめんだ。
「チッ……クソが」
何故俺がこんな目にあう。
確かに俺は魔術を使った悪事を何度もしてきた。
俺の強さを周りに知らしめるため、俺は強いと自分の中で言い聞かせるために。
「はっ……ははっ。その結果がこれとはな」
残った魔力を全身に巡らせる。
俺はもうどうあがいても一人だ。味方なんてものはいない。
ならばこの強さで全員屈服させるのみだ。
「ユウジ。全員でかかればアイツを倒せる。ここは皆で力を合わせよう」
「そうだ。アイツは俺達を殺そうとしてきた。このまま見過ごすわけにはいかない」
「ここにいる皆で、今度こそアイツの悪事を止めるぞ」
「え、えぇ皆。そんな……危ないよぉ……」
カトレア・ローレンスは相変わらずオロオロするばかりだが、他の家畜共は魔力を巡らせ、俺に向けて攻撃態勢へと入った。
だが、その中でただ一人。
一番のリーダー格であるはずのサトウユウジだけが、俺に対し全く敵意を向けて来なかった。
「ユウジ?どうした?」
そのことにルイス・アルベルトも違和感を覚えたのだろう。だが、サトウユウジが顔を向けた瞬間。凍りついたように固まった。
「ねぇルイス君。僕は別に、ブラッド・レンフォートを倒すつもりなんてないよ?」
「……え?」
「確かに彼は君達に酷い事をしてきた。だから君達が彼を嫌うのは仕方ないよ?……でも、だからといって彼を虐めてもいい理由にはならないよね?」
周りの空気が、一瞬にして張り詰めた。
それもそうだろう。
いつも笑顔を振りまいていたサトウユウジの顔が凍り付くように冷たく、大きく見開いた目には殺意にも似た怒りが込められていたのだから。
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