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第14話

「なんなんだコイツは」 転入してきてまだ日が浅いというのに、コイツはほとんどの生徒を支配している。 俺の様な力づくではない。人望も信頼も手に入れて、自分の正義も貫いて、まさに物語の主人公のようだ。 「レンフォート様」 「え、あ?な、なんだ」 「とりあえずお部屋の件は理事長に報告しておきますので、修理が完了するまで僕の部屋でお休みになってください」 「あ……あぁ」 少し怒りが収まってきたのか、先ほどよりも柔らかな声になっていたサトウユウジに、俺は言われるがまま、アイツの部屋へ転がり込み。ソファーに座ってくつろいでしまっていた。 「い、いやいやいや!!!!何をしているのだ俺は!!!!」 今夜サトウユウジの部屋に行かないようにするため、契約の切り方を試行錯誤していたというのに!!なんで俺は、こうもあっさり奴の部屋に来ているんだ!! しかも言われた時間より随分早い。 契約で無理矢理なら分かる。でもこれは、俺自身の足で来てしまっている。 「ち、違うのだこれは……。なんかこう、頭がふわふわしていたというか……。自分が自分ではなくなっていたというか……」 顔が熱い。心臓が煩い。 サトウユウジが俺をかばい、俺を助けてくれた。その時のアイツの背中を思い出すと、頬が緩みそうになる。 まさか……嬉しかったとでもいうのか? アイツに助けられたことが。 「違う!!そもそもこうなったのはアイツのせいだぞ?なのに、何故!!」 「お待たせしました」 「うおぉ!!お、おかえり」 「そんなに驚かなくても」 「別にそういうわけでは……」 「あ、理事長に報告したところ。お部屋は一週間もあれば元通りになるそうですよ」 「そ、そうか。ご苦労」 「いいえ」 「…………」 「…………」 重い沈黙が続く。 クソッ。何故急に黙る。 色々と言いたいことがあるだろう。いつものように涼しい笑顔で、説教でも何でもすればいいのに。 「ブラッド様」 「な、なんだ」 隣に座ってきたサトウユウジの顔が近づく。 まさか、今から前の続きを始める気なのか?と思い、俺は思わず瞼をぎゅっとつむるが。一向に押し倒されることも、無理矢理口づけをされることもない。 どうしたのかと思い、ゆっくりと片方の瞼だけを開けると、サトウユウジはただずっと俺の顔を見つめていた。 「な、なんだ。俺の顔に何かついているか?」 「いえ、ただ……悲しんでおられるのではないかと思ったので……」 「は?俺が、悲しむ?何故」 「あんなことをされたのです。貴方の様なお方でも、心は傷つくでしょう」 まさかサトウユウジに、そんな心配をされているとは思いもせず。俺の口からは「は?」「え?」と阿保みたいな声しか出なかった。 「すみません。僕のせいですよね。まさかこんなことになるとは思いもしなくて……。でももう大丈夫です。これからは僕が守りますから」 意味が分からない。 何故コイツは、俺の心配なんかをするんだ。 今まで魔力を使って悪事を働いてきた俺を許せなかったのではないのか? 俺は敵だったのではないのか? 「一体何故、お前は俺を助けるんだ」 素朴な疑問は、いつのまにか口から零れてしまっていた。 俺は、俺が嫌われる理由を知っている。だから誰かに好かれたいなど思っていなかった。 俺のプライドを、俺の地位を守るためには、力でねじ伏せ、言う事聞かせ、相手のすべてを支配するしかない。 だから信頼とか、好意というものは捨てたつもりだったのだ。 なのに、コイツのせいで……。 サトウユウジのせいで……。 「お前は何故俺を助ける。何故俺を見捨てない。何故俺を見てくるんだ。そんな事をされたら俺は……俺は……」 「僕が貴方を助けたいから、貴方と一緒にいたいから、貴方を見たいから……それじゃあ駄目ですか?」 震えていた俺の手を、サトウユウジがそっと握ってくる。 傷ついていた心が癒されるような、温かさ。 初めて知った、優しさだった。

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