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第23話

「んっ……ここは」 「おはようございます。レンフォート様」 「何故……貴様がここにいる。カトレア・ローレンス」 重たい瞼をゆっくり開けると、眩しい光が差し込んできて目がくらみそうになる。 それに身体も重い。上体を起こすだけでも、背中や肩がバキバキと音を鳴らしている。まるでずっと固まっていたかのようだ。 「というか、何故は俺はこんな所に」 どう見ても俺が寝ていた場所は、保健室だった。 しかし何故俺は、保健室で寝ているのだろうか? 確かユウジと朝までセックスして、それからは気絶するように寝てしまったのだから、起きるとしたらユウジの部屋のはずなのだが……。 「ちょっと待て。カトレア・ローレンス。貴様先ほどユウジが兄上様に殺されかけていると言ったな」 「はい」 「俺は一体、何日寝ていた」 「三日間です」 「はぁ!?三日もだと!?」 「どうやらユウジ君が貴方を眠らせていたようです」 「クソッ!!何を考えているんだアイツは!!」 どおりで身体が重いはずだ。 「本当はそのまま一週間近くは眠らせておくつもりだったのでしょう。でも、私が起こしました」 「……何故起こした」 「ユウジ君のしていることは、貴方にとって納得のいくものではないと思ったからです」 俺の隣で小さく手を震わせながらも、はっきりと答えるカトレア・ローレンス。 あぁ確かに、納得いくわけがない。 あの時は「負けないから」なんてほざいていたくせに、本当は自分がどうなるか予想していて、俺を巻き込まないためなのか、自分が辛くなるからなのか、俺を眠らせたまま全てを終わらせようとしていたアイツのやり方に納得など出来るわけがない。 「しかし何故貴様なんだ。カトレア・ローレンス。俺は何度も貴様に酷い仕打ちをしてきた。なのに何故」 「勘違いするなよブラッド・レンフォート。俺達はユウジを助けるためにお前を起こしたんだ」 ずっとそこで立ち聞きしていたのか、保健室のドアを勢いよく開けてズカズカと入ってきたルイス・アルベルトは、俺の胸倉をつかみ上げて声を荒げた。 「目が覚めたなら早く行け!!そしてユウジを連れて教室に戻ってこい!!お前にしか出来ないんだ!!ブラッド・レンフォート!!」 「近い。煩い。気安く触るな」 「っ……やっぱりお前は悪だ。悪人だ」 「はっ。またそれか」 「でも、ユウジにとってお前は正義なんだよ」 俺の胸倉をつかむ手が緩むと、ポタポタと布団に雫が落ちていく。 「俺はユウジみたいな正義の味方に憧れていた。優しくて、強くて、かっこいい、まさに俺の理想の正義のヒーロー。でもそれは、俺の勝手な理想で勝手な正義論……それをずっと押し付けていた。ユウジにもお前にも……」 俺の寮が壊されたあの日。ユウジに言われたことが相当ショックだったのだろう。 いい気味だ。なんてあの時は思っていたが、涙を流しながら語るコイツの顔を見ていたら、哀れみさえ感じてしまっていた。 「ごちゃごちゃと煩い家畜だな。誰でも自分にとっての正義と悪はあって当たり前だろう」 「……え」 「ソイツにとっての正義や悪はあって当たり前だ。まぁ勿論人それぞれだろうがな。貴様にとっての悪は俺で、俺にとっての悪は貴様だ。誰かの正義は誰かにとっての悪になる。それはもはや仕方のないことだ。だから喧嘩や争いが起きるし、嫌いな奴や好きな奴も出来る。な?そんなものだろ?」 「……まさかお前がそんなことを言うなんて思いもしなかった」 「殺すぞ」 「でも……そうだよな。だって俺、やっぱりお前のこと嫌いだし」 「奇遇だな。俺も貴様が嫌いだ」 嫌い。そう言うルイス・アルベルトの目には、今まで向けられていた敵意が全くなかった。 「良かったね、ルイス」 「いや何が?嫌いって言われたんだけど俺」 「うん。でも良かったね」 「貴様……この俺に嫌いと言われて喜んでいたのか。気持ち悪いな」 「ちがぁーーう!!」 必死になって否定するルイス・アルベルトを見てくすくすと笑うカトレア・ローレンス。まさかこの二人が、俺の目の前でこんなにも気を許した表情をする日が来るとは思いもしなかった。 この俺よりも弱くて、たいした価値もない奴等。 しかし、何故かこの空間も悪くないと思ってしまう自分がいた。 ここにアイツもいれば……。 「一つ聞きたいことがある。貴様等はサトウユウジが魔法使いだとしたら、悪だと判断するか?」 「……いいえ」 「いや」 「ユウジ君は私にとって正義です」 「ユウジは俺にとって正義だ」 なんとなく予想はついていたが、二人の返答に俺は思わず笑みをこぼした。 「ならばこの俺が、アイツを連れ戻してこよう」 「お願いします。ブラッド・レンフォート様」 「癪だけど、頼んだからな」 ブレイク兄様に勝てる気はしないが、ユウジだけでも死なせず連れ戻せれば俺の勝ちだ。 「あ、ついでにこれ持って行けよ。多分使えるだろうからさ」 「後、二人の居場所も」 「……助かる」 ルイス・アルベルトが投げてきたものを受け取り、カトレア・ローレンスから居場所を聞いた俺は、保健室を後にし。急いで二人がいる場所へと向かった。

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