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第24話
幼い頃、僕はブラッドに出会い。好きになった。
魔法使いも魔術師も同じようなものだと言ってくれた彼に救われ、僕に勝てないと分かっていながら何度も勝負を挑んでくる彼が可愛くて、負けた後いつも悔しがる彼の顔がたまらなかった。
一人になってしまった僕の唯一楽しい時間だった。あのままずっと、ブラッドと過ごしていたかった。
でも徐々に、街には魔法使いがいるという噂が広がっていた。
もし僕が魔法使いだとバレて、一緒にいたブラッドまで巻き添えになったら、今の僕じゃ守れない。
だからあの日。彼の記憶を消し、僕はそのまま姿をくらました。
でも今は違う。強くなって戻ってきた。
今度はずっと一緒にいれる。離れなくていい……そう思っていた。
「やぁ。遅かったね。サトウユウジ君」
「まさか、ここを指定されるなんて思いもしませんでした」
ブラッドの兄。ブレイク・レンフォートに指定された場所は、幼い頃僕とブラッドがいつも会っていた場所だった。
「私達レンフォート家の敷地だからね。思いっきり魔術が使えるし、ここは君とブラッドの思い出の場所だろ?折角だからね。連れてきてあげたかったんだよ」
「やはり知っていたのですね」
「勿論。弟の監視は兄の役目だからね」
「このブラコン」
「契約でブラッドを縛っている君が言うのかい?」
「僕達は恋人ですから」
「うわっ。まだ付き合ってもいないのに恋人と言うのは、流石にどうなんだい?」
互いに視線を逸らすことなく睨みつけあう。
きっとこの人には、既に僕が魔法使いだとバレている。多分子供の時から。
今日のこの勝負も、何か策があって申し込んだのだろう。
でないと、慎重派のこの人が感情だけで魔法使いの僕に挑むわけがない。
相手は魔術の天才。
多分今日死んでもおかしくはない。
だから本当は、あの夜の日にどうしても「好き」だと言って欲しかった。
僕に好意を向けてほしかった。
もう、いいんだけどね。ブラッドさえ守れればそれで……。
「皆、力を貸して」
呼吸を整え、意識を周りに向ける。
何百年も生きた立派な木々、そして自然界で生きる動物達、皆から少しづつ力を貰い。頭の中でイメージするが……。
「……どうして」
力が貰えない。
ここには木々や川や、動物達もいる。
なのに、皆から力が貰えない。
「私が魔法使い相手に、なんの対策もしてないと思っていたのかな?ユウジ君」
ブレイクは得意げに笑う。
勿論警戒はしていた。けれど、彼はまだ何もしていないように見えていた。
しかし相手はあの魔術師の天才。
今までの魔術師とは戦い方がまず違うのだろう。
「一体なにをしたんですか」
「私達のいる場所から半径百メートル付近まで、魔力結界を作ったんだよ」
「結界……」
「そう。だから結界内にいる限り、私の魔力が自然や生き物達から得る力の流れを邪魔しているんだ」
確かに自然界から得る力の流れは、一つ一つが小さい。彼の膨大な魔力でなら、簡単に消されてしまうだろう。
しかしどうする?
このままだと僕は、どうすることも出来ない。
「さ、じゃあさっそく始めようか」
「ッ!!がはっーーーー」
瞬間、背中に重い一撃を食らった。
しかしまたもやブレイクは、指一つ動かしていない。
「ウッ!!ガッ!!」
彼はその場から全く動いていないのに、さっきから僕の身体には拳で殴られたような衝撃が走る。
まさか、魔力で攻撃しているのか?
でも、魔力の形も色さえも見えない。
まるで空気に攻撃されているかのようだ。
「ゴホッ!!ッ……そういえば結界すら目視出来ない……これは、本当に魔力なのか?」
「あぁ、勿論私の魔力さ。本来の魔術師は皆、自身の魔力を形にするか、そのまま固めて放つか、その考えしかない。でも、それだけじゃあつまらないなって思ったんだ。だから私は、魔力を形にもせず、固めることもせず。空気の様に流すことにしたんだ」
「成程。結界はその為でもあったんですね。空気の様に流した魔力を逃がさないための……」
だとしたら、この結界を壊せば。
「君の考えている事は分かるけど……どうやってこの結界を壊す気かな?魔法も使えない君が」
そこが問題だ。
今の僕では、この結界をどうすることも出来ない。
「ここまで……なのかなぁ……」
本当は諦めたくなかった。もっとブラッドと一緒にいたかった。
折角強くなったのに、また会えたのに。
でも、なんとなくこうなるんじゃないかって予想はしてた。
だから最後に、彼の口から「好き」だと聞きたかったのに……それだけが心残りだ。
「どうしたのかな?もう諦めちゃったのかな?なら……最後に遺言でもあれば聞くよ?ユウジ君」
「僕は……僕は……」
「なにかな?ゆっくりでいいよ」
言いたいことが頭の中でぐるぐる回る。
ブラッドになにか……。いや、ブレイクに対して何か言ってやるか?いや、クラスの皆にも……。
最後の言葉をーー。
なにかーー。
色々考えてみた。
けど、それでも出てきた言葉は一つしかなかった。
「まだっ!!死にたくない!!」
その瞬間。
パリーーンッ!!と、何かが割れる音が聞こえた。
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