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第25話
「結界が……」
どうやら今の音は、ブレイクが作った結界が壊された音だったらしい。
だが、彼の魔力は並外れている。結界も相当強力だったはずだ。
そんなものを一体誰が?
「ようやく見つけたぞ」
コツコツと強い足音を立て、男は乱れた銀色の髪を掻き上げた。
「ブ、ラッド……」
僕たちの前に現れたブラッド。どうやら結界を壊したのは彼だったようだ。
でもどうやって?
彼は僕が眠らせておいたはずなのに、どうしてここに来てるんだ?まさか、誰かが起こしたのか?でもなんで?誰がそんな。
「ユウジ」
「どうして、ここに来たのですか。僕は一人でも平気です。だから」
「どうしてだと?そんなの、貴様を殴るために決まってるだろう」
「へ?」
怒ってるだろうな……とは思ってた。
けどまさか、いきなり顔面をグーで殴られるとは思いもしなかった。
「ぅっ……」
鼻が折れたんじゃないか?って思うくらい滅茶苦茶痛い。
正直これ、ブレイクに攻撃された時よりも重傷なんだけど。
「な、なにするの……ブラッド」
「貴様。元々半分は死ぬ気だったろ」
「っ!!それは……」
「だからわざわざ俺を眠らせ、起きた頃には全てが終わっているようにしたかったんだろ」
地面に尻を付けたままの僕の上にまたがったブラッドは、胸倉を掴み上げ、自分の怒りを僕に見せてくる。
確かに自分が同じことをされたら、きっと凄くムカつく。怒りたくなると思う。
そんなの、分かってたことだけど……。
「それでも、ブラッドを危険な目に合わせたくなかった」
「なんだと貴様。この俺を舐めているのか?」
「え?イタッ!!」
ゴンッ!!と思いっきり頭突きをされ、僕を掴んでいた手がパッと離された。
「この俺が、守られてばかりだと思うなよ」
ブラッドはまるで、壁になって僕を守るように前に立ち、兄であるブレイクに対して敵意を向けた。
「へぇ。ブラッド、君は魔法使い側に味方するってことでいいのかな?それがどういうことか、ちゃんと分かってる?」
「ブラッド駄目です!!貴方までここを追い出されることになってしまう!!いや、それだけじゃ済まなくなるかもしれない!!だから!!」
必死な僕と、煽りをかけるブレイクに対し。ブラッドはより一層不機嫌な顔をして、大きくため息を吐いた。まるで呆れ果てたように。
「どいつもこいつも……魔法使いだとか、味方とか、敵とか、守るとか……いい加減鳥肌が立つんだよ。戯言ばかり並べてなに格好つけているんだ?気持ち悪いにもほどがある」
それは明らかにこの場ではふさわしくない台詞。
ブレイクと、そして僕までも貶す様な目で見つめてくる。
「俺はそんなものどーーでもいいんだよ。俺がここに来た理由は一つ。お前等二人とも気に食わないからだ。特に兄上様、貴方はずーーと昔から気に食わない。俺を弱者扱いし、馬鹿にしてきた貴方だけは特に」
「でも本当の事だ。ブラッド、君は弱い」
「では今から試してみましょうか?兄上様」
ブレイクの興味は僕から外れ、ブラッドへと向かれた。
二人は互いににらみ合い、魔力の流れを集中する。
そして、先に仕掛けたのはブラッドだった。
「っ!!」
ブラッドが右足で地面を強く踏みつけた瞬間、地面がブレイクに向かって大きくひび割れていき、巨大な穴を開けた。
「空気中に兄上様の魔力が漂っているのなら、俺は下から行かせてもらいます」
巨大な穴に落ちていくブレイク。そこからは禍々しい色のブラッドの魔力が満ち溢れていた。
「飲み込んで、押しつぶせ」
ひび割れた地面が、再び押し戻されるように閉じていき、割れ目さえも綺麗になくなっていく。
これでブレイクを地面の底へと閉じ込めた。そう思っていたが、途端に地面が激しく揺れると同時に大きく破裂した。
中からは、服に付いた地面を軽く払うブレイクが何の気なしに現れる。
「全く。酷い事するなぁブラッドは。私じゃなかったらきっと死んでたよ」
「チッ」
「さて、じゃあ次は私の番だ」
パチンッとブレイクが指を鳴らすと同時に、ブラッドの身体が宙を浮く。
僕と同じように、空気中に漂っているブレイクの魔術に攻撃されているんだ。
「ほら。どうするの?ブラッド」
ひたすら受け身を取りながらも、ブラッドは身体のあちこちに魔術をぶつけられている。
このままじゃ、先にブラッドが保たない。
「ブラッド!!」
早く助けないと!!
その一心で足を一歩前に出し、前に出ようとしたが、どうも様子がおかしかった。
「攻撃が、だんだん減っている?」
最初はブレイクが攻撃を止めているのだと思っていたが、あの不審げな顔を見る限りどうやら違うらしい。
「……ばら撒いた私の魔力が消えている。ブラッド。なにをしたのかな?」
ぶつけられた頬や目を赤く腫らし、肩で息をするブラッドは、不機嫌な顔して問いただしてきたブレイクに対し、ニヤニヤと笑みを浮かべた。
「あぁ、これを使ったんだよ」
袖をまくって見せてきたその腕には、僕と勝負した時に使っていたブレスレットがはめられていた。
「あれは確か、魔力を吸い取るっていう……」
「あぁそうだ。貴様の様な魔力を持たない奴に使っても何の効果も無いが、今回は違う。寧ろ兄上様の様な膨大な魔力を持っている奴に程、この道具は使い勝手がいい」
「またそうやって卑怯な手を使うんだねブラッド。兄として恥ずかしいよ」
「アハハハ!!それなら尚更、この手を使って良かったと思えますよ兄上様。俺は貴方にさえ勝てればそれでいいのですから!!」
ブレスレットをはめている方とは逆の手に、禍々しい色の魔力が集まっていく。
その魔力は次第にブラッドの手の中で形を変化させ、そして一つの黒い拳銃を作り出した。
「これで終わりです。兄上様」
バンッ!!と発射された黒い弾は、まっすぐブレイクの胸に向かっていく。
あのまま弾が貫けば、きっとブレイクは無事では済まされないだろう。
ブラッドは本気で、実の兄を殺すつもりなのだろう。
そんなの駄目だ。
彼に、家族を殺す様な真似はしてほしくなんかない。
「ブラッド!!!!」
僕は近くにいた小さな虫達からほんの少しの力を貰い、それを発射された弾にぶつけた。
破壊するまでは出来なかったが、軌道を外れた弾はブレイクの胸を貫通することなく反れてくれた。
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