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旅の仲間
「改めて、レジナルド・アバークロンビーだ。適当にレジとでも呼んでくれ」
「よろしくなレジ!俺はダグ。ダグ・ブライアーズだ。で、こっちの白いのが」
「ルーファス・バートレット」
愛称はルゥだ。とダグが付け足す。どうやらルゥはあまり口数が多い方ではないようだ。それとは逆にレジとダグの二人は話すことが好きだ。共に陽気な性格な為、歩きながらもなかなか会話が絶えない。
「二人はずっと一緒に旅をしているのか?」
「そうだな。俺はルゥが赤ん坊の時から面倒をみている」
「へぇ!ダグはルゥの兄貴って感じか」
「兄貴よりオッサンって感じだよ、ダグは」
大人びて見えるルゥだが、実はまだ18歳だという。10代からしたら28歳のダグはオッサン扱いなのか・・・と、レジは心の中で24歳の自分はどうなのだろうと思ったが、聞くのはやめておいた。あえて心に傷を負う必要はない。
「二人はなんで旅をしているんだ?」
昨日聞いた感じだと、何処か目的地があってそこに向かっているという訳ではないらしい。
「ルゥに広い世界を見せるため、かな」
少し前方を空を見上げながら歩くルゥを見ながらダグは言う。その視線には、我が子を見守るような優しい温かさが感じられる。
「ルゥは産まれてすぐの時、悪趣味な貴族に監禁されていたんだ」
「監禁!?」
普通の口調で淡々と突然告げられた事実にレジは驚いた。
「俺の髪と眼の色、珍しいだろ?」
「確かに見ない色だが・・・」
ルゥのように真っ白な髪も、燃えるような赤い瞳もとても珍しい。それに加え成長した今の姿から想像するに、それはそれは可愛らしい赤ん坊だったに違いない。しかし、それが原因で悪趣味な貴族の目に止まったのだとすると、なんて恐ろしいことなのか。
「ま、ダグが助けてくれたし赤ん坊だからそん時の記憶もないけど」
「・・・そうか」
なんでもない事のように言うが、助け出すことが出来て何よりだ。
戦争が終わり平和な時代が続いているとはいえ、見えない部分での残酷な出来事は無くなった訳では無い。法で禁止されているが、今でも子供や女を誘拐しては奴隷として他国に売り飛ばす奴隷商は存在するし、武器や珍しい生き物、宝石の密輸入もあとを絶えない。
「まあそんな出来事もあって、元いた場所に留まる気になれなくてな。それに閉じ込められたルゥを見た時に、こいつにはこんな狭い場所じゃなく、広くて綺麗で自由な世界を見せてやらんといけないなと思ったわけだ」
だからルゥが行きたい所に気が向くままに旅をしているという。
「にしてもダグが助けたって・・・ルゥが赤ん坊ならあんたも10やそこらの子供だろう」
「ん?あぁ、まあ・・・俺は昔からデカくて腕っ節だけは強かったからな」
「俺の知ってるダグはずっとこの見た目だよ」
・・・それはいくらなんでも怖すぎるだろう。
三人は出発の際に見た白い鳥が飛んで行った方角へただひたすらに道を進んだ。途中何度か綺麗な蝶や、珍しい木の実などにルゥの気が取られ足が止まることがあったが、かなりの距離を進むことが出来た。
日が傾いてきた所で今日の寝床の準備と食料を集めることにした三人。寝床の準備をレジ、食料集めにダグとルゥの二手に分かれた。
木と木の間に帳を下ろし、火をおこすために乾いた枝を集める。軍にいた時代に野営をすることもあったレジにとっては手馴れた作業であった。集めた枝で焚き火を始めたタイミングで食料を集めに行っていたダグとルゥが戻ってきた。
ドサッ
「!おい、なんだその量は!?」
「ん?これじゃ足りなかったか?」
重そうな音と共に地面に置かれた大量の魚と大きな鹿が一頭。
「あと二、三頭捕まえてくるか?」
「いやいやいや!むしろ十分過ぎるくらいだ!」
ルゥが再び出かけようとするのを慌てて引き止める。二人が食料を集めにレジの元を去ってから、時間にして30分やそこらしか経っていない。しかしその短時間で大きな鮭を六匹に鹿を捕まえてきたのだから、驚いたのも無理はない。しかも、二人は特に武器らしい武器を持っていないのにだ。
「狩りは得意分野なんだ」
「ダグは魚ばっか」
「お前さんだって肉ばっかだろ」
とりあえず、旅の間は食事に困ることは無さそうだ。
「レジの剣、よく斬れそうだな」
レジの腰に下げられた剣を興味深げに見るルゥ。実際にその剣は軍にいた時に挙げた功績の褒美として貰った、かなりの名剣であるため斬れ味は勿論抜群である。
「ちょっとこの鹿捌くの手伝って」
「・・・まぢかよ」
しかしルゥにとってはどんな名剣も、斬れ味の良いナイフと同じらしい。
「早く」
結局空腹のルゥの腹の音に急かされつつ、レジは鹿の解体を手伝った。何故かルゥのお願いは断りずらい。
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