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獣人を知る者

食事を終えた頃には日は完全に沈み辺りは暗闇に包まれていた。同時に昼間は暖かった気温も急激に落ちこんだ。 「さむ・・・」 荷物から毛布を引っ張りだしみの虫のようにくるまったルゥが焚き火で暖をとっている。 「今の季節にそんなに寒がってちゃ冬はどうするんだ」 「ルゥは体温が低いからな」 「俺は二人みたいに筋肉だるまじゃないから仕方ない」 確かにルゥと比べると身体をおおう筋肉の量は違うが、ひどい言われようだ。どうもこの子供は少し口が悪い。 「で、今日は鳥が飛んで行った方角へひたすら歩いてみたわけだが、明日はどうするんだ?流石にずっとルゥの感だけで進むのには不安があるんだが」 旅に出る前、ルゥの感の通りに進めばいつかは獣人の里にたどり着く、そう言い切っていた。その時は何故かルゥが言うならその通りなのだろうとも思ったが、時間が経った今になってやはり不安になってきた。 「どうするんだルゥ?」 ダグが満腹によりうとうとし始めていたルゥを小突いて起こしながら聞く。あくまで決定権はルゥにあるらしい。 「ん゙ー・・・、じゃあ、獣人のことを知ってる人に、話をして聞きに行く」 「そんな人がいるのか?」 そりゃ獣人についての情報が手に入れば獣人の里へと道のりは一気に近づくだろう。しかし、ダグはこの二ヶ月の間旅をしてきて、獣人の情報を知っている人にはまだ一人も会えていない。それこそ獣人が活躍した70年前の事なら、当時を知る老人もちらほらといる。 しかしそこで聞ける話といえば、獣人の身体能力が恐ろしく高いといった事くらいだ。元々獣人はどの国にも属さずに、獣人達の集落、つまり獣人の里で暮らしていたという。戦争での戦力として一時的に手を組んだに過ぎないランドール王国含め他国も、獣人達が恐ろしく強いということ以外にあまり多くの情報を持っていないのだ。 「獣人は他種族とあまり交流を持っていなかった。だから獣人に詳しい人間はなかなかいない」 それこそ大戦で手を組んでいたランドール王国ですら、獣人について詳しくは知らなかったのだ。 「なんで、獣人が他種族と交流を持たないようにしていたか、知ってる?」 「なんで・・・」 どうにか眠さを我慢しているのか、通常よりも目を細めた状態のルゥがレジを真っ直ぐに見ながら問う。焚き火の炎が反射し、赤い瞳が更に赤く輝いている。何故、獣人が他種族と交流を持たないのか。 「獣人は、普通の人間よりも寿命がずっと長いんだ。だから、人間とは同じ時間を共に出来ない」 「寿命が長い?」 そんな話は聞いたことが無かった。 「人間の寿命が約80年だとする。そうすると獣人の寿命はその3倍はある」 「!?つまり、約240年は生きるのか」 「そう。だから、人間と一緒にいれば、次々と周りの人間が死んでいく」 人間と関わることで結果的に友達や仲間、大切な人が出来ても、それらの人々は獣人をおいて先に死んでいってしまう。 「獣人にとって同じ獣人じゃなくても、一度気持ちをかよわせた相手が次々にいなくなることは辛かった。だから獣人はそれらとの距離をおいたんだ」 結果的に獣人同士の仲間意識は更に強まった訳だけど。と、ルゥは続けた。レジはその話に驚いた。今聞いたような話は今まで聞いたことが無かったからだ。そして何故それをルゥが知っているのかと困惑した。しかし、ルゥの話はまだ続いていた。 「でも世界には獣人と同じく寿命の長い種族がいたんだ」 「そんな種族が他にもいるのか!?」 「いる。それが、龍人」 龍人。それは獣人以上に姿を見た者が少ない、もはや伝説上の種族とまで言われている存在だ。 「龍人の寿命は大体300年から320年ってとこらしい。まあ、同じ長命同士、獣人族と龍人族には交流があったと言れている」 「どんどん話のスケールがデカくなってきたな・・・」 話の流れからして獣人のことを知っている人とは龍人のことなのだろう。そのことはなんとか理解したが、問題は残ったまま。むしろより難題にぶち当たったのでは無いかとレジは思った。 「獣人にすら見つけられていないのに龍人を見つけるなんて無理だろう・・・」 「それなら問題ないぜ」 「え」 レジはこの後のダグの言葉に耳を疑った。 「俺もルゥも龍人には会ったことがあるからな」 「というか、昔一緒に暮らしてたし」 「・・・はぁ!?!?」 もはやレジの頭は話の流れについていけていなかった。そして新たな疑問、龍人と暮らしていたというダグとルゥは何者なのか。 突然のことに頭を抱えるレジであったが、言えることはただ一つ。二ヶ月間動きの無かったこの旅に、大きな変化があることには間違いない。

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