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龍人
まだまだ聞きたいことはたくさんあったが、限界を迎えたルゥが寝てしまったので強制終了となった。
「ダグも獣人について何か知っているのか?」
「俺が言える情報もさっきルゥが言ってたことがほとんどだ」
獣人が人間と距離を置く理由、それが寿命が関係しているとは思いもしなかった。そして獣人というものは思っている以上に不思議な存在なのかもしれない。
それにしても、レジは迷っていた。目の前の光景に突っ込みを入れるべきかどうか。
「・・・お前らいつもそうやって寝てるのか」
「ん?」
さも当たり前かのように寝落ちしたルゥを、後ろから抱きしめるように抱えた状態のダグがきょとんとした顔をする。
あまり人のことにとやかく言うつもりはないが、どう見てもおかしい。
「ああ、こいつは寒いのが苦手だからな。俺は体温が高いから寒い時はこうしてるんだ」
「もしかして、二人はデキてるってわけじゃ・・・」
「ルゥとかぁ?そりゃないない!」
完全に否定するダグだが、どうしても二人の今の姿を見ると疑いたくもなるというものだ。レジは深く考えることをやめた。
翌朝、予想通りというか一番最後に目を覚ましたのはルゥであった。そして予想外だったのは一番早く目覚めたのがダグだったこと。軍にいた時の習慣であまり深い眠りにつくことのないレジは、朝も早起きの習慣があった。
「おはようさん、早起きだな」
「おはよう。あんたいつから起きてたんだ」
「ついさっき起きたばっかだぜ?」
そう言うダグの手元には調理途中の魚があった。昨日捕った魚は全て昨日食べてしまったため、新たに捕まえたということだ。そしてまた魚。
「で、なんで俺はルゥを抱えてるんだ」
「そりゃ抱えたままじゃ魚をとりに行けないからだろ」
レジが目を覚ました時、何故か腕の中にルゥがいた。それは昨日のダグがしていたように後ろから抱き抱えるような状態で。何よりもレジが驚いたのは、寝ている時も周囲に気を張った状態を保っているはずの自分が、ルゥを抱えさせられても起きなかったこと。
なんというか、抱き心地がとても良い。
変な意味ではない。しかし、何故か小柄でも女のような柔らかさがあるわけでもないルゥを抱えているこの状態が、酷く心地よく安心するのだ。それが何故なのかは、レジにはわからなかった。
「・・・」
無言でルゥを見つめながら何か考えている様子のレジを、ダグが見ていることには気づかなかった。
朝食が出来上がる頃になってようやく目を覚ましたルゥを加え、三人は食事を初めた。
「で、龍人はどこに行けば会えるんだ」
「ほほはら、ふぃっはふあい・・・」
「こらルゥ、食べ終わってから喋れ」
口いっぱいにご飯を詰め込んだまま喋るルゥ。全くと言っていいほど何を言っているのか聞き取れなかった。
「ここから三日くらい、北に進んだ先の谷にノエル・・・龍人が住んでる」
「三日か。意外と近いな」
「まあ俺らの足なら三日って距離だな」
あとはルゥが変なことに気を取られずに進んだらの場合だ、と。そればっかりはルゥの気分次第なので、真っ直ぐに進むことを祈るしかない。
朝食を食べ終わり身支度を済ませてすぐに出発した三人。昨日と同じく森に囲まれた道をひたすらに北へと進む。元々ランドール王国の端の方にいたため、このまま進んだ先は隣の国、クレバトス王国との国境にさしかかるだろう。
「龍人ってのは、やっぱ肌が鱗に包まれてたり」
「しない」
「しないのか」
龍人を見たことがある人間はほとんどいないが、その存在は度々昔話や伝説、子供向けの童話などに登場したりする。そこでは龍人は
龍の特徴を持っているとされていることが多く、肌を鱗で覆われていたり、手には鉤爪のような鋭い爪があるされていた。が、実際の所は見た目は普通の人間と変わらないらしい。
「獣人だって見た目は普通の人間と変わらないって言うだろ?」
「確かに」
そういえばそうだ。獣人だって身体能力はずば抜けているが、見た目に特徴は無かったという。強いて特徴をあげるとすれば、身長が高く体格がいい者が多いということくらいだ。だからこそ見分けるのが難しく目撃情報が掴めないのだが。
だが知られていない事実もある。普段は人間と変わらない見た目の獣人だが、極限状態の時や、感情が高ぶった時に獣化するのだ。と言っても完全に獣の姿になれるのは獣人の王のみで、通常は耳や尻尾が生える程度。その状態になると通常時の何倍も身体能力が跳ね上がるとされている。
「ノエルは確か今180歳?くらいだから、龍人の世界で言うと油の乗った中年のおっさん」
「おっさんか・・・ノエルが聞いたら泣くぞ」
「180歳!すげぇな龍人ってのは」
180歳の龍人、ノエルとは一体どんな人物なのか。
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