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嵐がくる

谷を目指して歩き始めて三日目。予定通りのペースで進むことが出来、目的地まであと少しの所まで三人は来ていた。 「この森を抜ければ目的地まであと少しだ」 「夜になる前には着けそうだな」 ラナの街を出て5日。夜以外ほとんど足を止めること無く進んできた。元々軍で鍛えられていたレジや見るからに体力のあるダグならわかるが、ルゥも音を上げることなく歩き続けている。 「ダグ、うさぎがいるぞ」 「追いかけるなよ」 むしろ一番元気に先頭を歩いているのだから、もしかしたら一番体力があるのかもしれない。 「元気だな」 「子供は元気が一番だからな」 大柄な二人といるせいで小さく見えるルゥだが、実際身長は180cm程あり筋肉もそれなりについている。狩りに出れば短時間で獲物を仕留める能力もあるし、ダグを担いで歩ける程に力もある。 しかし、自由気ままな性格とむさ苦しさの欠けらも無い顔がその事実を忘れさせる。その為ついルゥを子供扱いしたくなるダグとレジであった。 ワオォォォォンッ 太陽が真上から傾き始めた頃、遠くから狼の遠吠えが聞こえた。 「近いか?」 「いや、そんなに近くはないと思う」 レジは咄嗟に腰に下げていた剣に手をかけるが、ルゥがそれを制した。ダグも周りに意識を集中するが、やはりそれ程近くにいるわけではないようだ。すると、また遠くから、しかし先程よりも激しく吠える声が聞こえてきた。 ワオォォォォォォオンッ “ 嵐がくるぞ ” 「?!」 「どうした、レジ」 「今・・・」 狼の遠吠えに重なるように誰かの声が頭の中に響いてくるような感覚に、レジは驚き辺りを見渡した。その急な行動に隣にいた不思議そうな顔でダグが声を掛けてきた。 (ダグには聞こえなかったのか・・・?) 少し前方にいるルゥはこちらに背を向けているので様子がわからないが、ダグには今の声が聞こえていないようだった。 空耳にしてはあまりにもしっかりと聞こえた声に不気味さを感じていると、ポツっと水滴が空から降ってきた。 それは瞬く間に激しくなり、一瞬で辺りが見えない程の大雨へと変わった。 「っくそ、やばいぞ!!」 「どこかっ雨宿りが出来る所へっ」 「急ごう」 運悪く近くには雨避けになるような大きな木も、洞穴のような場所も見当たらなかった。そうしている間にも雨はどんどん強くなっていき、視界が悪くなったせいで数メートル先もしっかりと見ることが出来ない。 ただでさえ日が傾き気温が下がってきた中でこのまま雨に濡れ続けることは避けたかった。 「こっちはどうだ!?」 「っ!!おいっそっちは・・・」 「レジ!!」 視界の悪い中少し開けていた方へとレジが駆け出そうとした瞬間、ダグとルゥの二人が叫んだ。 「っ!!」 雨での視界の悪さと暗くなり始めていたため気づかなかったが、そこは森の端、目指していた谷のある崖であった。 急に開けた光景に驚く間もなく、踏み込んだ足元がぐにゃりと歪むのをレジは感じた。大雨のせいで水分を多く含んだ地面が脆くなっていたのだ。 (落ちる!!) そうレジが思ったと同時にグイッと力強く腕を掴まれ、その反動のまま傾き始めた体が反対側へと引き戻された。そして、勢いよく後ろに戻される瞬間に入れ替わるように白い影が、崖の方へ向けて横切っていった。 (っまさか!?) ドサァッ 「ルゥーーーー!!!」 レジの体が地面に倒れ込むのとダグが叫んだのはほとんど同時であった。 そう、足元が崩れ宙に投げ出されようとしたレジの腕を掴んだのはルゥだった。そして勢いよくレジを引き戻し、その反動でルゥの体が反対に崖の方へと投げ出された。 「なんてことだ!!ルゥっ!!」 「あまり身を乗り出すなっ!!また下が崩れるぞ!!」 「っ!!くそっ・・・」 自分を助けるためにルゥが崖から落下してしまった。レジはその事実に慌てて崖を覗き込もうとするがダグに止められる。降り続く雨にこの崖がどのくらいの高さがあるのか、下がどうなっているのか確認する事も出来ない。 「っくそぉ・・・!!俺のせいで・・・っ」 レジは蹲り拳を地面に叩きつけた。自分が不用意に駆け出したせいで大変なことになってしまった。確認は出来ないが、底が見えないからこそこの谷がそれなりの深さがあるのは間違いない。そんな所に落ちたルゥが、無事だとは到底思えなかった。 「俺のせいでっ、俺のせいで!!」 「落ち着けレジ」 「落ち着けるか!!俺のせいでルゥが崖から落ちたんだ!!!」 あまりの衝撃に取り乱すレジをダグが落ち着かせようとするが、逆に何故ダグが冷静にしていられるのかが理解出来なかった。 しかしダグを振り払おうとしたレジは、腕を抑える大きく肉厚のその手が小刻みに震えていることに気付く。 ダグは冷静でなど無かった。

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