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ただ無事を祈る
どうにか谷底へ行ける箇所を見つけ崖を下ったダグとレジ。下っている最中にあれ程までに強かった雨は止み、辺りを見渡すことが出来た。そして、ようやく見えた谷の深さに頭の中の不安は膨れ上がる一方であった。
「こんなに深かったのか・・・」
「いや、でもこの地形ならルゥが落ちた場所は他より浅い」
見えてきた光景にダグは記憶を辿り谷の地形を思い起こす。今下りてきた場所からルゥが落ちた方向につれ、緩やかにだが崖が斜めに下がっていたはず。と言っても、落ちればただで済む高さではないのは同じであった。
雨に濡れ、崖を下り、体は疲れきっていたが二人にそんなことは関係なかった。一秒でも早くルゥの元へ。その気持ちだけで二人は走った。今までにここまでの速さで走った事がない程のスピードで駆け抜ける。
「この辺りのはずだ!」
「っ何処だ、ルゥは何処だ!?」
ルゥが落下したと思われる地点に辿り着いたがその姿は見えない。少し範囲を広げて見渡し、岩の影なども探すがルゥはいなかった。
「どういうことだ・・・」
ダグは頭を抱えた。ルゥの死体を見つけることにならなかったことは良かった。しかしこの崖を落ちたルゥが元気に動き回れる程の状態であるとは思えない。そうだとしても何処に行ったというのか。
「ダグ!」
落下地点が違う所なのかと更に先へ移動しようとしたダグにレジが声をかけ駆け寄ってきた。そして手に持った物をダグに見せた。
「!これは・・・」
「これ、ルゥのチョーカーだよな」
ルゥはいつも首に金のコインの付いたチョーカーを付けていた。そして、レジの手の中にあったのは、まさしくそのチョーカーであった。
ルゥは間違いなくここにいた。そしてそのチョーカーの布の部分に、黒くて分かりにくいが他と色が違う部分があった。雨で濡れ、その部分から滲む赤い水、血である。
ルゥは怪我をしている。そんな状態で姿を消した。ーーーいや、誰かが連れ去ったのだ。
「ノエルだ」
「ノエルって・・・龍人の!」
「こんな場所に他に人がいるはずが居ない!!ノエルと一緒にルゥはいる!!」
そうだ。きっとルゥはノエルと一緒にいるに違いない。そう考えたダグはレジと共にこの先にあるノエルの家を目指した。
(ルゥ・・・無事でいてくれ・・・っ)
その頃、相変わらず意識のないルゥを自らが暮らしている家へと連れ帰ったノエル。雨で濡れた服を脱がせルゥをベッドに寝かせる。そして全身の怪我の具合を看ていった。
ノエルは医者だ。
一通り傷の手当てを終えた頃、玄関の辺りで物音がした。そして、
バンッっ
「ノエル!!!ルゥがっ・・・」
「うるせぇ馬鹿野郎!!!」
勢いよく扉を開けて中に入ってきたダグを間髪入れずに怒鳴りつけたノエル。その声に一瞬怯んだダグだが、すぐにノエルの元へと駆け寄った。そしてその後に続いて家に入ってきたレジに、ノエルはダグが一人では無かったことに気付く。
「誰だそいつは」
「っあ、俺は!レジナルドですっ、一緒に旅をしてて・・・」
「ノエルっ!ルゥはっ、」
レジの言葉を遮ってダグがノエルに詰め寄る。ルゥのことが気になって二人の会話を聞いている余裕などないのだ。
「ああもぉうるせぇな!!ルーファスは奥で寝てるよ!!」
鬱陶しそうにダグを払い除けるノエルだが、ダグはそんなことなどお構い無しの状態。
「寝てる・・・良かった・・・ルゥは生きてるんだな・・・」
「ちっとも良くねぇよ。生きてるのが奇跡って状況だったんだぞ!」
ノエルの言う通り、生きていることが信じられないような状況であった。しかしいくつもの運が重なり、絶体絶命の状況の中、ルゥはまだ意識こそ戻っていないが、命に別状はなかった。
「色々説明してやるが・・・まずはお前ら風呂に入って体を綺麗にして来い」
「いや、先にルゥに・・・」
「汚ねぇ姿で怪我人の周りを彷徨くなっつってんだよ!」
再びノエルに怒鳴られダグとレジの二人は纏めて風呂場へと追いやられた。一刻も早くルゥに会いたかったが、このままではノエルに怒鳴られるだけでそれは叶いそうも無いなめ、二人は大人しく大きな体をぶつけ合いつつ素早くシャワーを浴びた。
持っていた荷物は雨で濡れていたがノエルが用意してくれた服を借り、やっとのことでルゥの寝る寝室への入室を許可された。
「ルゥ・・・」
「良かった・・・」
ベッドに横たわるルゥの胸元が小さく上下していることに、きちんと息をしていることがわかりやっと二人は全身の力が抜けた。しかしその姿は全身を包帯や湿布に覆われ、何とも痛々しい。
「本当に、凄い強運だぞ。崖が他より低かったのもそうだが、落ちた下に木があってクッションになっていた。しかも手に枝が握られていたから、途中それを掴んで落下の勢いを殺したんだろう」
そのまま地面に落ちてりゃ間違いなく即死だ。そう言うノエルの言葉にダグとレジは全身の血の気が引いた。
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