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聞かされる事実

「レジナルド、お前もしかして自分を普通の人間だと思っているのか」 「え、」 唐突に言われたノエルの言葉にレジは言葉を失った。その言葉は、まるで自分が普通ではないと言っているようにしか聞こえなかったからだ。 レジナルドという男は、昔からやたらと体が丈夫だということ以外に突出した特徴は無かった。強いてあげるなら、幼い頃から周りにいた誰よりも力が強く、足が速かった。しかしそれはその恵まれた体格なら目立った特徴とも言えないだろう。 「ノエル、レジは目覚めていない」 「今は、だろ。そのうち目覚める」 「でもまだ目覚めていない」 静かに目を閉じていたルゥがノエルと言い合うように繰り返す、“目覚める”という言葉。それが何かはわからない。ただ自分ですら知らない自分の何かを、この場にいる他の者が知っているのは確かだとレジは思った。 「目覚めていない者に、俺達の運命を押し付けることは出来ない」 また同じ言葉が繰り返される。自分のことのはずなのに口を挟む隙を与えない二人の雰囲気に、レジはもどかしい思いでいっぱいだった。 (“目覚めていない”とはなんだ・・・?運命とは、なんなんだっ?) 我慢出来ずにレジが口を開こうとしたのを、ノエルが軽く手をあげ制す。今は黙っていろということか。 「ルーファス、お前がどういう考えで正体を隠しているのかはなんとなく想像がつく。だが、それは今の自分の状況を見ても同じ考えになるか?」 「っ、それは」 「お前は、運良く!命が助かったが、もしかすると今頃死んでいてもおかしくなかったんだぞ。そんな状況は今後二度とないとは限らない。それがお前ではなくこいつの方に起こらないともだ!」 ノエルの言葉にルゥは何も言い返すことが出来なかった。全身に伴う怪我による痛みとは別に、胸を鷲掴みされたような痛みがルゥの胸を襲った。その様子に気付いたノエルが厳しかった視線を少し和らげ、しかし視線は逸らさずに話を続ける。 「お前らにとってルーファス、お前がどういう存在なのかはガキのお前でも本能で知っているだろ」 「・・・」 「そんなお前のことを、知らないまま失うなんて、お前らには自身が死ぬより辛い事だ」 「・・・俺は死んでない」 「今回はな」 小さく言い返すルゥの頭をノエルは大きな手で撫でる。その手が余りにも優しく、心地よく、ルゥは諦めたように再び目を閉じた。 その様子を確認したノエルは静かにやり取りを見守っていた二人へと目を向ける。 「レジナルド、お前は知る権利がある。・・・いや、知らないといけない」 そう言い、ノエルはゆっくりと話し始めた。 「お前には家族はいるか」 「本当の親は知らない。だが、家族だといえる存在はいる」 「そうか。そう言える存在がいて、何故お前は今獣人を探して旅をしている」 「それはー・・・」 ノエルの問いに、レジはダグにルナの街で話した理由と同じ理由を再び話した。家族はいる、恵まれた環境にいた、しかし自分の居場所ではなかった。そこを自分の居場所にする為に、自らの居場所を間違える事がないという獣人に会って、その感覚を知りたい。偽りなくその思いを伝えた。 話を聞いたノエルは少しの間考えるような素振りをしたが、またすぐにその紫の瞳はレジをとらえた。 「獣人に会った末に、お前はその求めたはずの居場所を失うことになっても、本当の居場所を知っても後悔はしないか?」 「!!」 予想だにしていなかった問いにレジは戸惑った。求めたはずの居場所を失う?本当の居場所?どういうことなのか。 「お前がそこに在りたいと思った居場所は別にあるかもしれない。それ聞いて事実を受け止められるか」 言葉を言い換えたノエルの問いをレジは頭の中で繰り返す。俺が求めた育ての親や仲間達の元が、本来の居場所では無かったとしたら・・・。 「・・・それでも、俺は事実を知りたい。何故あそこに俺の居場所が無いのかも、本当の居場所ってのも」 それを知って家族の元に居場所を感じれなくても、家族が家族でなくなる訳では無い。今まで通り、家族は家族であり、仲間は仲間である。ただ違和感の正体がはっきりするだけ。 そのレジの言葉はノエルが求めていたものと同じだったようで、ノエルは静か頷いた。 「ここから先はルーファスに聞け。・・・ルーファス、こいつは真実を受け止める心構えがしっかりあるぞ」 「・・・わかったよ」 ルゥはダグの手を借り、ゆっくりと寝たままの状態から少しだけ体を起こし、レジの方へと体を向けた。 それに合わせるようにレジもベッドの傍へと行き、ルゥに無理のないように視線を合わせて座った。

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