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見えない枷
「本来とは違い人間に囲まれて幼い頃を過ごしたせいか、ルゥは考え方が人間寄りなんだ」
獣人にとっては何よりも特別な存在であるルゥも、人間からすれば珍しい見た目以外はなんら他のもの達と変わらない。
唯一身近にいた獣人として、ダグは獣人というものについて出来る限りを教えた。しかし、ダグ以外を知らないルゥにとってはその王と獣人達の不思議な関係を理解するのは難しかったのだ。
「本来なら教えなくても獣人達の中で育てば自然と理解するもんだからな。結局幼いルゥが理解出来たのは“ダグは俺の事がすき”ってことくらいだ」
「・・・可愛いな」
「そうなんだよ」
ある程度ルゥが成長し旅に出れるだけの体力がついた頃、ダグとルゥはバラバラになった獣人を集める為の旅に出ることにした。
獣人達は近くにいれば気配で互いを認識することが出来る。新しい王が誕生したことでその力も回復していた。その為、旅を初めてすぐにルゥは初めてダグ以外の獣人と出会うことになった。
「それがもう中々に熱狂的な奴でな。ルゥを見た瞬間に泣くわ笑うわ拝むわ・・・ありゃ凄かった」
「すごい光景だな・・・」
「まあ何十年も待ち続けた王様だからな」
ダグにとってはその獣人の反応は無理もないものだと思ったが、ルゥにとっては衝撃的だった。
初めて会った相手のその反応に酷く戸惑ったのだ。
それからも旅を続ければ似たような反応をする獣人達に何人も出会った。そしてある日出会った獣人の言葉がルゥに更なる衝撃を与えることになった。
「王・・・!本当に王だ・・・!!良かった・・・、やっと俺達に新しい王が・・・っ、」
最初は他の獣人達のようにルゥに出会えたことに涙を流して喜んでいた。しかし、その後に流した涙には何処か悲しさが混ざっていた。その事が気になり事情を聞くと、
「親父もあと少し頑張れば良かったんだ・・・、そうすれば王に会えたのに」
「親父さんは歳だったのか?」
「いや・・・、王に会えない悲しみに絶えれず、自ら命を・・・」
「!!」
その男の父親は、王のいない悲しみに耐えきれず自らの命を終わらせてしまったというのだ。力が衰えるのも、里が無くなったのも耐えられる。だが、王がいない日々に心が耐えられなかったというのだ。
その言葉を聞いてルゥが言った。
「王のせいで、その人の人生は、終わってしまったの・・・?」
初めて会ったものが王に喜び涙し、王に会えないからと自ら命を終わらせた。何の力もない幼い自分に、獣人達の人生が振り回されている。そう思ったのだ。
「そんなことをルゥが・・・」
「獣人とはそういう生き物なんだ。王が、ルゥがそんなことを思う必要なんてないのにな」
気にすることはない。王がいれば獣人は幸せだ。振り回されているなんて思う奴はいない。いくらそうダグが言っても、それは獣人としての考えしか知らない者の言葉であった。
レジにはなんとくルゥの気持ちが理解出来た。それはレジもルゥと同じく人間の中で育ったからだろう。
「ルゥは、獣人達に自由でいて欲しいんだな」
「俺達は自由だぞ」
「そうなんだけどよ・・・。なんて言うか、自由にしているつもりでも、心が無意識に自由じゃないんだよ。上手く言えねぇけど」
獣人達の王への想いは強要されているわけではなく自然なものであるため、確かに自由ではある。しかし、その想いの強さが実際に命を落とすことにもなっているのだ。それは王という存在に囚われているとも言える。
なんと言えばいいかわからずうんうんと唸っているレジを見て何故かダグは安心した。
「俺にはわからんが、レジ、お前ならルゥの気持ちが分かってやれるのかもな」
ルゥはレジに本当のことを話すことで、レジの人生を変えてしまうことを恐れていた。しかし、獣人であることを知ったレジは、獣人でありながら人間であり続けている。
それは獣人でありながら人間的考えを持つルゥにとって、とても良い理解者になれるのではないだろうか。ダグがどんなに頑張ってもわかってやれなかったルゥの気持ちを、共感し支える存在になってくれれば、そう思った。
「さ、そろそろ飯を作りおえないとノエルにまたドヤされるぞ」
「そうだな」
話に夢中で止まっていた作業を再開する。ここ数日は野宿で料理らしい料理を食べていない。それに怪我をしたルゥに栄養のあるものを食べさせたいというのもあり、料理をする二人にも気合いが入る。
「しかしこんなに食材使って良いのか」
「いいさ。どうせ無くなったら調達に行かされるのは俺達だからよ」
ルゥの怪我もあり当分この家に居候することになるだろう。そうなったらノエルにこき使われるのは目に見えている。
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