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ルゥの願い

ダグとレジを部屋から追い出したノエルは改めてベッドに横たわるルゥの元へと近寄る。 「話したことを後悔しているのか」 レジに獣人の王であることを打ち明けたルゥは、話をしている最中から見るからに苦しそうであった。それはルゥが、王である自分が獣人にとってどんな存在であるかを理解しているから。理解した上で、王である自分がレジの人生を変えてしまう事実を恐れているから。 「後悔は、してない」 いつかは言わなくてはいけないことであったし、一緒に旅をしている以上レジが目覚めるのも時間の問題だった。 「あいつは大丈夫だろ。王に縋って生きないと生きていけないような奴には思わなかったぞ」 「そうだと願ってる」 そう言うとベッドに腰を下ろしたノエルに擦り寄るように引っ付くルゥ。腰元に寄せられた、その白く綿毛のような柔らかい髪をノエルは優しく撫でる。 ノエルは獣人ではない。だからこそルゥが素直に甘えれる相手でもある。ノエルにとってルゥは獣人の王ではなく、ただのルーファスなのだ。 「第一、ここに連れてきて俺に獣人の話をさせるつもりだったんなら、こうなるのはわかってただろ」 「上手く俺達の事を隠して話して貰うつもりだった」 「無茶言うな」 大分気持ちが落ち着いて来たのかいつもの眠そうな表情をしているルゥの様子に、ノエルは内心ホッとした。 初めてダグがルゥを連れてノエルの元へ訪れた時、ルゥの心は壊れる寸前だった。獣人の王でありながら、その王という存在を理解出来ずに悩む小さなルゥにノエルは危うさを感じ手元においた。 獣人ではないノエルとの生活は、新しい知識や考えを身につけることに役立った。 「獣人は王がいれば幸せなんだ。いない時代が長かったから極端な奴だっているだろう。でも、今はお前がいる。お前が獣人達に自由を求めるなら、お前が少しでも長く生きて、王であり続けてやれ。そうすれば奴らは奴らの幸せを自由に生きられる」 「・・・うん」 そしてお前はお前の幸せを見つけろ。王だからといって全てを背負おうとするな。 ノエルが出会った頃から言い続けている言葉である。何よりも王という存在に囚われているのは王であるルゥ自身だ。もっと気楽に考えればいい。 「ったく、ガキのくせに一々物事を難しく考えてんじゃねぇよ」 「俺はまだ子供?」 「当たり前だ。俺はお前の10倍近く生きてるんだぞ。お前なんかまだまだよちよち歩きの子猫だ」 確かにノエルと比べてしまえば、ダグだってまだ若造だと言うくらいだ。ルゥなんてまだまだ赤ん坊みたいなもんなんだろう。 そう言われてしまえばなんだか少し心が軽くなった。 お前は無力な子供なんだと言われれば、自分のせいで人生を引っ掻き回されている者が居ることを忘れられる気がした。 (忘れられるはずなんかないのにな・・・) 「それよりルーファス、何処か痛くはないか」 「全身痛い」 「正常だな。飯を食ったら痛み止めをやろう」 幸運が重なったとはいえ崖から落ちたというのに、ルゥの怪我は全身打撲と右腕の骨折のみという奇跡的状態であった。その怪我も獣人の回復力があれば一ヶ月もあれば完治するだろう。 「また旅は続けるんだろ」 「ん。俺は里を復活させないといけないからな」 ただ自由に旅をしているように見えて、ルゥ達の旅にはちゃんと目的がある。 色々な土地を訪ね世界中に散ってしまった獣人達を集める。そして再び獣人の里を作り直すこと。 ルゥが王だから里を作り直したいわけではない。ただ、長年苦しみを味わった獣人達に安らげる場所を作ってやりたいのだ。バラバラになってしまった仲間たちが、ゆっくりと心安らげる場所、それを作れるのは自分だけなのだから。 実は旅をしていく中で見つけた獣人達にも仲間探しをして貰っている。既に新しい地で新しい生活をしている者には、その生活を続ける選択肢もあるというのに全ての獣人達が里に帰ることを希望しているから困ったものだ。 「自由に生きればいいのに」 「それがそいつらの自由なんだよ」 といっても、昔あった獣人の里はもうない。その為新たに里にする土地を見つけなければならないのだが、実はそれにルゥ達は手間取っていた。 「この数十年で国が整ったからな」 戦争が終わったことで国同士の国境ははっきりとされ、昔獣人達が暮らしていたような未開の土地はもうほとんどないのだ。 「勝手に人の家の庭に家建てるのもな、それで戦争にでもなったら・・・」

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