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働かざる者食うべからず
翌日から絶対安静のルゥをおいて、ダグとレジはノエルによってこき使われていた。
「働かざる者食うべからず!精一杯働け!!」
四人分の食料の調達から、部屋の掃除、ノエルが育てている畑の手入れ、昨日の嵐で壊れた小屋の修理など、仕事は次から次へとやってくる。
体力だけは有り余っているダグとレジだが、遠慮という言葉を知らないノエルに振り回され精神的に疲れていた。
「ルーファス、包帯を取り替えるぞ」
「ん」
怪我の具合をみながら濡れた布で全身を綺麗に拭いてやる。落ちた時の衝撃で全身に出来た擦り傷や切り傷に薬を塗りつけると、しみるのか目をギュッと閉じ体に力が入っている。
「傷が残らないといいが」
「い゛っ・・・、別に、傷くらい残ってもいい」
容赦なく薬を塗りつけるノエルを涙目で睨みつけるルゥ。そんなことをしても意味がないのはわかっているが、痛いものは痛い。傷口の上に触らないようにと再びガーゼや包帯が巻かれる。
「いいわけあるか。傷は男の勲章だなんて奴もいるが、お前は折角綺麗な顔をしてんだ、体も綺麗な方がいいだろ」
「そういうもんか?」
ルゥはあまり見た目に関して興味がない為、傷が残ろうと残らまいとどちらでも良かった。しかし、骨折のせいで固定された右腕はなかなか不便なので早く治って欲しい。そう思い指先しか動かない右手の指を軽く曲げ伸ばしする。
「にしてもルーファス、お前今18だよな?」
「?うん」
「まだ発情期来てないのか」
「まだ」
獣人には大人に近づく段階で発情期が来る。個人差はあるが、16歳前後で発情期が来ることが多かった。一度発情期を迎えれば、獣人としての力は完全に開花したことになる。
「やっぱむさ苦しい奴ばっか見て過ごしてるから教育に良くないのか・・・」
「それは、流石にダグが可哀想」
元々獣人としての力の強いルゥにとって困ったことはないのだが、確かに18歳にして発情期がまだというのは遅いかもしれない。それは精神的に無力な子供でいたいと心の何処かで思っていることが、原因かもしれないなとルゥは思っていた。
昼頃になり食料を集めに行っていたダグとレジが戻ってきた。
「力は試せた?」
「いや、なかなか難しいな。何となく力の根源みたいなのはモヤっと感じるんだが、引き出し方がいまいちピンと来ない」
昨日獣人として目覚めたレジは今日はダグと共に力の使い方を試していた。しかし、目覚めたと言っても長く眠っていた力。なかなか上手く引き出すことは出来ないらしい。
ダグがアドバイスしようにも、元々幼いころから力を使っていた為、的確な説明が難しいようだ。
「慣れるしかないな」
「早く獣人の力ってのを味わってみたかったが・・・ま、ゆっくりやるさ」
それにしても、あまりにもすんなりと実は獣人であるという事実を受け入れているレジに、本人も周りの者も驚いていた。
「暫くは受け入れられないかと思っていたけど・・・」
「そういう性格なんだろうよ」
相変わらずダグに力の使い方のコツを聞き出そうとしているレジの様子に、ルゥとノエルは感心すらした。なんというか、適応能力がすごい。
「そういや珍しい花が咲いていたんだ。匂いもいい。ルゥ、こういうの好きだろ」
「・・・ありがと」
「当分外に出られないだろうし、また何か見つけたら持ってきてやるよ」
レジが渡してきたのは狩りの最中に見つけたという青い花。確かにあまり見たことがない花びらの形をしており、甘くいい香りがした。くんくんと匂いを嗅ぐルゥの様子に無意識のうちにその白い頭をくしゃくしゃと撫でる。
ダグやノエルにも頭を撫でられることはよくあったが、レジは一日に何度も撫でてくる。それはルゥの髪の毛が柔らかく気持ちがいいかららしいが、ルゥもレジの大きくて少し皮膚の硬い手で撫でられることを気に入っていた。
「なんて言うか、つい構いたくなるんだよなぁ」
レジは元々面倒見のいい性格をしている。それもあり、同年代からは勿論、やたらと年下に好かれるタイプであった。軍に居た時は周りに年下もたくさんおり、ルゥくらいの年齢の者もいた。どいつも血の気が多くやたらと元気で手のかかる連中で、それはそれで可愛かった。
しかしまたそれとは違う、キリッとした見た目に反して意外と中身がふわふわしているルゥは、レジの周りには今まで居なかったタイプである。そんなルゥのことがレジは可愛くて仕方なかった。
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