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チョーカー
ルゥ達がノエルの家に来て二週間ほど経った。
右腕の骨折はまだ完治とはいかないがルゥの怪我の具合も大分良くなり、全身を覆っていた包帯も先程漸く全て外された。
「大分良くなってきたな」
「痒い」
傷口は塞がったがそれを覆うかさぶたがどうにも気になってしまう。我慢出来ずにポリポリと掻いていると、その手を無言でノエルに叩き落とされた。
二週間寝たきりとまではいかないがほとんど動いていなかった為、大分体が鈍っている。それを解すためにも今日からはリハビリの開始だ。
「まずは軽く散歩にでも行ってこい」
「ん、ついでに晩御飯でも捕ってくる」
「阿呆か。軽くって言ってるだろう」
折角外に出るならと思い提案したが怒られてしまった。見張りがわりに洗濯を終えたばかりのレジを連れて、ルゥは久々に外の空気を吸いに家を出た。
「ん〜〜〜っ」
「ははっ、久々の太陽は気持ちいいか」
「最高」
毎日のように窓辺で日向ぼっこはしていたが、やはり実際に外に出て浴びる太陽は気持ちが良かった。珍しくにこにこと見るからに上機嫌な様子のルゥを見てレジも自然と笑顔になる。
「お!やっと外出許可が出たか」
家の裏で薪割りをしていたダグがルゥ達を見つけ声をかける。ダグの周りには大量の薪が積まれていくつもの山が出来ていた。・・・きっとノエルは、もうすぐやってくる冬の分の薪を全て用意させるつもりなのだろう。
辺りをキョロキョロと見渡しながら歩くルゥの後をレジは大人しくついていく。植物や虫、動物など、ルゥは気になったものを散策しながら歩くのが好きだった。その為物に溢れた街を歩く際は、なかなか前に進まない。
しかし、今回は目的地があるのかルゥの足取りはある方向へと向かっていた。
「ここは・・・」
「ちょっと探し物」
そこは二週間前、ルゥが落下した場所であった。何かを探しているようで地面や、落下した際にクッションとなった木の辺りをしきりにキョロキョロと見渡すルゥ。
何を探しているのか。
「ルゥ、手伝うぞ。何を探しているんだ?」
「首輪」
「首輪?」
ん、と頷きながら首の辺りで首輪のジェスチャーをするルゥ。
それを見てレジは何かをハッと思い出した。
「チョーカーか!」
「そうそれ」
ルゥが常に首に付けていた金のコインのような飾りがついたチョーカー。崖から落下した際にそれが無くなっていたことに気付き、ルゥはそれを探しにやってきたのだ。
しかしそれはここを探しても見つからない。なぜなら、
「俺が持ってる」
「ほんとだ」
レジがズボンのポケットから出したそれにルゥは驚いた。それはまさに今自分が探していた物に間違いなかったからだ。
「あの日ルゥを探している最中に見つけたんだ。紐が切れていたから直してから返そうと思って・・・すっかり忘れてた」
そう、ルゥが崖から落ちたあの日、丁度この木の辺りでレジが見つけた。途中で紐が千切れており、紐自体も汚れていたため新しいものに取り替えておいたのだ。しかし言い訳ではあるが、ノエルのお使いの合間に作業をしていた為、すっかりそれをルゥに返すのを忘れていた。
レジからチョーカーを受け取ったルゥはまじまじとそれを見つめる。
「綺麗になってる」
「コインの部分も磨いておいた」
紐部分だけでなく、中央のコインも磨かれ本来の輝きを取り戻していた。綺麗になって戻ってきたそれをルゥは早速首に付けた。その慣れた首の感触にルゥはチョーカーを一撫でして頷く。
「レジ、ありがとう」
「いやいや、例を言われる程の事なんかしてないぞ。何度も言うが、お前は俺の命の恩人なんだ。それくらいさせてくれ」
今日までに何度も言葉にしてきた感謝の気持ち。ルゥがあの時にレジを庇っていなければ、命は無かっただろう。あの崖から落ちて今こうしてピンピンしていられるのは、落ちたのがルゥだったからこその奇跡なのだ。
「それは大事なものなのか?悪いな返すのが遅れて」
わざわざこうして探しに来る程に大切な物であったなら早く返すべきだった。
「いや、ただのチョーカーだよ」
「そうなのか?」
実際、そのチョーカーは別段珍しいものでもなんでもなかった。数年前に旅の途中で立ち寄った街で見つけた、その国の昔の硬貨をチョーカーにリメイクしたというものを、なんとなくその街を訪れた記念に買った。それが何処の街だったかももう覚えていない。ただつけ始めたら、逆に無いと物足りないような気がするのでずっと付けっぱなしにしていたのだ。
「でも今日からはお気に入りにする」
そう言ってふわりと笑うルゥの笑顔を見て、レジは胸がじんわりと温かくなるのを感じた。まるでルゥの喜びがそのままレジに伝わってくるような感覚であった。
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