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親心
「最近、ルゥが反抗期だ」
冬前に街に売りに行くための薬の調合をするノエルの横で、作業を手伝っていたダグがポツリと零した一言。チラッとダグの方を一瞥したノエルは、すぐに視線を手元に戻した。
「最近!ルゥが!反抗期だ!!」
「うるせぇ聞こえてる!あえて聞き流したんだよ!!」
「なんでだよ!!」
面倒だからに決まっている。しかしこのまま無視し続けて諦めるような様子ではないことに気付き、ノエルは溜息をついた。
「ルーファスが反抗期?どこがだ、普段通りだろう」
ノエルが話を聞く体勢をとってくれたことで、ダグは嬉しそうに座り直す。基本的に楽観的で豪快な性格の為、悩み事とは無縁なダグ。しかしルゥの事となると途端に面倒になることがある。そして今回も何を言い出すか、ノエルには何となく想像が出来ていた。
「最近ルゥが、レジとばっか一緒に行動して俺の事を避けている!」
「いや、お前さっきルーファスと仲良く洗濯してただろ」
「あれは久々だったんだ!」
久々といっても3日ぶりといったところだ。怪我も大分良くなり自由に動き回るようになったルゥは、少しずつリハビリも兼ねてノエル達の手伝いを始めた。しかしまだ右手は軽く固定された状態の為、基本的に誰かとペアになって動いている。
そして今もレジと一緒に畑に野菜を収穫しに行っているところであった。
ダグが言うようなルゥがダグを避けているという事実は無い。だが、避けてはいないがレジと共に行動をとることが多くなったのは事実であった。
「ダグ、ありゃ別に反抗期でもお前を避けているわけでもない。レジナルドに懐いてるってだけだ」
「レジに・・・」
「子離れしろってことだろ」
子離れという言葉に見るからに落ち込むダグ。別にルゥがレジに懐くことは悪くない。むしろ今まで旅をしていたせいで友人らしい友人もいないことを考えると、仲良くする相手が出来たというのはいいことだ。成長と捉えてもいいだろう。そう思う気持ちと、赤ん坊の頃から傍にいた身として自分から離れていくことが寂しい気持ちが戦っている。
その心の葛藤中のダグを横目にノエルは手元の作業を再開した。
(まあ確かに、寂しくはあるよな)
実はノエルもルゥの成長に少しばかり寂しさを感じていた。自分やダグの後ろをちょこまかとついて回っていた子供が、気づけば自分の存在を理解し行動しようと頑張っている。数年会わないうちに見た目だけでなく、中身も様々な変化があったのだろう。
そう思うと、その変化を身近で見ることが出来なかったことが勿体なく感じた。種族は違えど、ノエルにとってはルゥは我が子のように可愛い存在である。
「レジ、力は使おうとして使うんじゃない。力の流れをイメージするんだ。例えば・・・」
ルゥは足元に転がっていた石を拾い上げ、軽い動作でそれを近くの岩へと目掛けて投げた。しかし、その動作の軽さとは違い石は猛スピードで前へと弾き出され、岩を大きな音を立てて打ち砕いたのだ。
「すげぇ!!」
「今のは投げる瞬間に左腕に力が集中するイメージ」
速く走る時は足へと意識を集中するし、高くジャンプする時は全身のバネを意識する。それに慣れてくれば自然と意識しなくても無意識のうちに力の流れが体に身につく。
「やってみて」
「おう!」
レジは手頃な石を拾い上げると、頭の中でイメージをする。
(腕に力が集まるイメージ・・・)
意識を集中させ腕を大きく振りかぶる。そして腕を振り下ろした瞬間、指先に熱が集まるような感じがした。腕の振りに合わせて前へと飛んで行った石は大きな音を立てて岩を砕いた。
「まあまあかな」
「よっしゃぁぁあぁ!!!」
ルゥよりは威力が劣るものの見事に砕かれた岩は、勿論人間の力で為せる技ではない。この数日暇を見つけてはレジはルゥと力の使い方を練習していた。その結果、まだまだ意識しなくては難しいが少しづつ力をコントロール出来るようになってきたのだ。
「レジはハーフだからどれ程力が使えるかわからなかったけど、慣れれば普通の獣人と変わらないかも」
それも、小さい頃から体を鍛えていた為、体の使い方自体が上手いということもあるだろう。
「日頃の鍛錬のおかげだな」
厳しい訓練に耐えてきただけの力は身についていたってことだなと、軍にいた頃の日々を思い出す。
「軍ではそんな大変な訓練をするのか」
「まあな。いつの時代だって力は必要さ」
戦争が終わり平和な時代が続いているとはいえ、争いが無くなったわけではない。いつまた戦争が起こるかはわからないし、悪事を企てる者もいる。他国との力関係を保つためにも力は必要なのだ。
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