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目的地はランドニア
ルゥ達がノエルに会いに来て約一ヶ月。ルゥの怪我も完治し、そろそろ旅の再開を考えていた。
「ルゥも復活したし、食料や道具の準備も揃った」
「あとは何処に向かうか、か」
レジが持っていた地図を広げて難しい顔をするダグ。これまでの旅で様々な土地を見てきたが、今の所まだ里をつくるのに適した候補地を見つけられていない。寒さが苦手なルゥが北部に位置する国へは行きたがらないため、そちらはまだ足を踏み入れてはいないが既に10ヶ国中8ヶ国は見て回っていた。
「そんなに色々行ったのか」
「まあもう何年も旅してるしな。ルゥの嗅覚頼りの旅だから全てを見て回ってるわけでもないし」
ルゥは気まぐれに歩いているように見えて、その旅の先々では高確率で獣人を見つけ出していた。近づけばダグにも気配がわかるのだが、ルゥにはもっと広い範囲でそれがわかるようなのだ。
その嗅覚も土地探しにはなかなかの苦戦を強いられている。
「やっぱ北部の国にも行くしかないんじゃないか?」
「今から冬が来るってのに?無茶言うな」
ルゥは意地でも寒い土地には行きたくないらしい。獣人探しも他で出会ったもの達に任せているくらいだ。何よりいい土地があったとしても、寒い土地に里を作るつもりは毛頭なかった。
「一つ、提案なんだが」
「なんだ?レジ」
「ランドニアに行ってみないか?」
ランドニアとはランドール王国の王都である。そして、レジが元々暮らしていた場所でもあった。
「なんだ、家族に会いたくなったか」
「いやまぁ、元気かは気になるが。それより会って欲しい人がいるんだ」
レジには考えがあった。その人物に会い、もし事が上手く進めば里を作る場所が見つかるかもしれない。それどころか、獣人と人とが適度な距離を保ちつつ共存するという願いも、その人の助けがあれば叶えられないことではない。そうレジは思っている。
「そんなことが出来るって・・・一体どこのどいつだってんだ」
「ナラマ・ランドールだ」
レジが口にした名前に聞き覚えのないダグとルゥは頭にハテナを飛ばす。しかし、ノエルにはその名前に聞き覚えがあった。
「おい、ナラマ・ランドールつったらランドール王国の国王じゃないか」
「そうだ」
「国王だぁ!?」
そう、ナラマ・ランドールとはランドール王国の現国王の名前であった。
ランドール王国は元々他国よりも広い国土を持つ国であった。しかし70年前までは、戦争の被害もあり今の豊かで賑やかな姿ではない。現国王のナラマ・ランドールの祖父の代から徐々に長年の戦争で乱れた国を立て直しつつ、他国との関係を築き直し、ランドールを今のような大国にまで押し上げたのだ。
ナラマ国王は王位を継承して今で10年になる。しかし、太子の時代より積極的に国の再建に関わってきた為、民や配下からの信頼はその年数以上に厚いと言われていた。
「なんでまた国王に・・・っつか、まずそんな国のお偉いさんに会うことができるのか?」
一国の王というのは、ふらっと行って会えるような気軽なものではないだろう。それこそ未だに頭の上にハテナを飛ばしているルゥのように、その辺をふらふらと散歩していることもないはずだ。
「会うことは、出来る。国王に会って獣人の存在を知らせる。そうすれば、もしかしたら里にする土地を与えてくれるかもしれない」
「「「!」」」
レジが言うには、ナラマ王は噂の通りとても国民からも配下のものからも信頼が厚い人物らしい。そのナラマ王に会い獣人の状況を伝える。そうすれば、きっと力を貸してくれるというのだ。
「ランドールの国王に人望があるのはわかった。あの膨大な国土をまとめる人間だ、きっと出来た奴なんだろう」
「その通りだ」
「しかし、それは人間に対して・・・いや、ランドール国民に対してだからではないか?」
ノエルが言いたいことはつまり、ランドールの国王としては慈悲深く立派な人間かもしれない。が、それは自国民が相手であるからではないのか。その力を獣人のために使ってくれることはあるのかということであった。
「国王ならきっと力を貸してくれる。あの人はそういう人だ」
しかしレジには迷いがない。そこまでの自信がどこから来るのかはわからないが、きっぱりと言い切ったレジに異を唱える者はいなかった。
そしてその場にいたもの達の視線はルゥへと向けられる。この旅の決定権は全てルゥにあるのだ。
「わかった。王都に向かおう」
こうしてルゥ達の旅の次の行き先が決まった。
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