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新たな旅立ち

「ノエル」 「なんだルーファス」 行き先が決まったことで話は終了したかに思えたが、そうではなかった。 「ノエルも一緒に旅に行こう」 ルゥはずっと考えていた。長年この谷で一人で住み続けているノエルのことを。ルゥとダグがこの家に住んでいたのは期間としては3年程。昔の話はわからないが、ルゥの知る限りノエルはもう何十年も一人で暮らしているのだ。 それは龍人というものが、元々集団で生活する種族ではないからだ。成人すると同時に親元を離れ、新たな土地に自らの住処をつくる。パートナーがいれば共に暮らすが、龍人というのは獣人以上に数が少ない。獣人と同じく龍人同士も互いの存在がわかるらしいが、出会うことは奇跡に近い確率であった。 一人暮らしのノエルには勿論パートナーはいない。正確にはルゥ達が知らない昔にはそういう存在が居たらしいのだが、病にかかり命を落としてしまったという。その事があった為、ノエルは医学を学び医者になったのだと話して貰ったことがあった。 「ノエル、そろそろ新しい生活を始めてもいいんじゃないか?」 「・・・俺の家はここだ」 「一人は寂しい」 「そんなことには慣れている」 一人に慣れているということは事実であろう。それくらいの時間を一人で過ごしてきたのだから。 しかし、何年も訪れることのなかったルゥやダグの部屋をいつでも使えるように掃除していた事や、薬を売るためとはいえ頻繁に街に出向いていることは、ノエルの人恋しさの表れではないか。そうルゥは思っている。 「畑もある。この家を長く空けることは出来ない」 「冬は畑をしないだろ」 「・・・」 この辺りは北部の国と比べ気温こそ下がることはないが、乾燥した土地の為冬には作物は育たない。なのでノエルの畑も冬の間は休眠期間となる。 「ノエル、一緒に行こう」 ルゥの赤い瞳に見つめられノエルは静かに考えた。暫くの間沈黙が続く。そして、一つ大きな溜め息を吐いた。 「俺も甘くなったもんだ・・・」 「!」 「行こう、俺もお前達と共に」 「「よっしゃ!!」」 ノエルの言葉を聞いてダグとレジがハイタッチをする。実は二人も含め三人でどうにかノエルを一緒に旅に連れて行けないかと話し合っていたのだ。 この一ヶ月、普段の姿を見ている訳では無いがノエルは毎日楽しそうにしていた。元々の口の悪さで何度となく怒鳴られはしたが、それも面倒みの良さからくるものだ。 「嬉しそうな顔してるな、ルゥ」 ノエルと一緒の旅が余程嬉しいのか、目を細めて笑うルゥの頭をレジが撫でる。ルゥは無表情ではないが、ムスッとした時以外の表情の変化は控えめである。なので、今は余程嬉しいのだろう。 「毎日ノエルに怒鳴られるダグを想像したら、面白かった」 「そりゃ確かに賑やかで楽しそうだ!」 「おいおいそりゃないぜっ怒鳴られるならレジ、お前さんも一緒だろう!」 「まず怒鳴られる前提をやめろ」 とても賑やかな旅になりそうだ。 ノエルの分の旅の準備の期間も含め、出発は一週間後に決まった。それまでに家の中をある程度片付け、貯蓄していた食料も持っていけない分は食べてしまう必要がある。街に売りに行く予定であった薬も早めに売りに行き、足りない物の調達も済ませる。なかなかドタバタの一週間だ。 「道具は全部持っていくのか?」 「全部は無理だが必要最低限は持っていく」 旅の最中でも薬作りが出来るように調合に必要な道具は持っていくようだ。おかげで用意された荷物の総重量はなかなかなものであったが、それを軽く持ち上げてしまう所がノエルも普通の人間ではないことを思い出させる。 どうにか慌ただしくも一週間で準備を終えた四人。出発する前にノエルが家の壁に赤い紐を巻き付け初めた。 「なにそれ」 「まじないみたいなもんだ。ここに誰かが来ることはまずないと思うが、誰かが家に入れば離れていてもわかるようにしている」 長年住んでいた経験上、この谷に人が足を踏み入れることは無いだろうが、念には念をということらしい。どういう原理かはわからないが、紐が切れると離れた所にいるノエルにはそれがわかるという。 「すごいな。それで誰かが侵入したら龍になっていつでも飛んでくるってわけだ」 「龍の姿なんて最後になったのが100年以上前だぞ。もう飛び方も忘れたわ」 「え!?龍になれるのか!?!?」 当たり前のように話すノエル達の会話にレジは思わず突っ込んだ。何かとんでもない事を言っていたではないか。 「当たり前だろ。龍人がただの長生きなだけの生き物とでも思っていたのか」 当たり前と言われても、そんな常識はレジが今まで生きてきた中で存在しなかった。驚きに言葉もなく唖然とする。 この世の中にはまだまだ知らないことがたくさんありそうだ。

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