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静かな夜に

布団の温もりに誘われるようにいつも以上に早く眠りについたルゥを横目に、レジは剣の手入れをしていた。軍にいたときに褒美として貰った愛剣は、残念なことにここ最近では仕留めた獲物を捌く時にしか出番が無い。元々戦争のない時代なため訓練や競技会でしか使っていなかったが、流石に剣としてナイフ代わりの使い方は可哀想だと思い丁寧に磨いていく。 今頃ダグとノエルは盛り上がっている頃だろうか。誘いを断ったものの、満月のせいなのか実はレジもいつもと違う自身の昂った感情に気づいていた。 (野営訓練の時とかにもたまにあったが、まさか発情期があるとはな・・・) 以前からたまに気持ちが昂る日があった。しかしそれは訓練による気持ちの高揚からくるものかと思っていたのだが、まさか発情期というものがあるとは予想外であった。ハーフのレジはまだその症状は軽めであった為、今まで疑問に思ったこともなかったのだ。 しかし何故か今日は今までと比べ、より一層体が熱く気持ちが昂っているように感じた。それが獣人の力に目覚めたからなのか、単に最近一人になる時間が無く下半身を放置していたせいなのかはわからない。 「・・・・・・」 剣の手入れに意識を集中してみてもなかなかその感覚は治まらず、どうしたものかと思いチラっと隣のベッドで眠るルゥへと視線を移した。一度眠ったルゥはなかなか起きることはない。少し気が引けたが、寝ている間に手早く処理してしまおうと考えたのだ。 しかし、 「レジ」 「!、っ、珍しいな、寝れなかったか?」 先程まで確かに眠っていたはずのルゥの赤い眼がこちらへと向けられている。まだ始める前であった為ギリギリセーフではあるが、レジの心臓は飛び上がりそうな程にドクドクと脈打っていた。既に始めていたら気まづいなんてものでは無い。 「なんか、体が、熱い」 そこでレジはようやくルゥの様子が少しおかしい事に気がついた。 透き通るように白い肌はほんのりとピンクに火照っており、寝起きだからなのか瞳が潤んで赤い眼がいつも以上に宝石のように輝いている。 「!?」 体が熱いという言葉とその様子から体調が悪いのかと思い慌ててルゥに駆け寄るレジ。その体に触れてみると確かにいつもの体温の低いそれとは明らかに違った。 「大丈夫か?風邪かもしれないな、さっきまでは平気そうだったが・・・」 「・・・レジ」 「どうした?」 ノエルがいれば良かったのだが生憎今はレジしかいない。どうしたものか考えていると、ルゥが何かを言いたそうに腕を掴んできた。 「なんか、ここが変」 「・・・・・・え?」 そう言って掴んだレジの手を布団の中に引き入れたルゥ。触れたそこは熱く、そして硬くなったルゥの下半身であった。 「なんだ、ルゥ・・・お前も発情期か」 ルゥの反応で体調不良かと思い慌てたレジであったが、状況を理解し安堵と拍子抜けのため息が出た。 なんのことはない。ハーフである自分ですら発情期の影響を受けているんだ、完全な獣人であるルゥに影響が無いはずがないではないか。 だからといって急に下半身を触らせるのはどうかと思うが、原因がわかったことでほっとした。 「ここで処理するならその間外に出ておくか?それともダグ達の元に行くか?」 いや、未成年をそういう店に連れていくのはまずいか・・・?と考えるレジの腕を再びルゥが引く。 「俺、初めてなんだけど」 「え」 「どうすればいい」 ルゥの言葉の意味が一瞬理解出来ずに固まるレジ。 (初めて・・・?) 反応を返さないレジに不安そうな顔をするルゥ。そう、ルゥは初めてなのだ。18年間生きてきた中で、発情期を迎えることも、この腹の奥から湧き出てくる様な熱い感覚も、下半身の昂りも、全てが初めての経験であった。 知識として発情期がどういったものかは知っている。しかし、知っているのといざ体験するのとでは全然違った。 ダグも発情期がくれば教えようと考えていた為、その発散方法などを詳しく教えていなかった。 「・・・は、ぇ?初めて・・・?今まで自分でやったこととか・・・」 「?何をやるんだ?」 「・・・」 自分でやったことがないのであれば、勿論他人との経験もないだろう。首を傾げるルゥの様子にそれを理解したレジは頭を抱えた。 (18歳でそんなことあるのか!?!?) あまりにも純粋過ぎるルゥに声には出さなかったが盛大に心の中でつっこみを入れたのであった。

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