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鈍感な獣人達

「いやー!昨日は久々に盛り上がったなぁー!」 翌日の朝、ダグはいつも以上に上機嫌であった。どうやら随分と昨晩はお楽しみだったようである。 「ノエルも随分帰りが遅かったから盛り上がってたんだろう」 「まあな。なかなか女達が帰してくれなかった」 群れずに暮らす龍人としては意外なことに、ノエルはなかなかにプレイボーイであるらしい。それにしてはパートナーを亡くしてからはずっと一人で暮らしていたわけだが。 「生活を共にする番とそういった相手は別だ」 ということらしい。 そんなことよりもルゥには気になることがあった。朝食のスープを口に運びながら隣に座るレジに視線をやる。 ルゥの視線に気づいているはずなのに、黙々とパンをちぎっては口に入れている。全くと言っていいほどこちらを見ようとしない。 「レジ」 「!?な、なんだルゥ」 声をかければ一応反応は返ってくる。しかしなんだそのぎこちない返事は。ルゥはレジの反応が気に食わずムスッとした表情をする。その事に慌てたレジが何か言おうとするが、次はルゥがこちらを見ようとしない。 「どうしたんだお前さん達・・・昨日喧嘩でもしたか?」 「別に」 「どうせレジナルドのいびきが煩かったとかそんなことだろ」 「!?煩かったか!?それは悪いっ」 別にいびきが煩かったわけではない。というよりも熟睡しているルゥはいびきくらいでは起きることもないのだが。 しかし昨日のことを二人に話すことはレジには出来なかった。発情期を迎えたばかりの何も知らないルゥに、自分が何をしたのか。思い出しただけでも頭を抱えたくなる。 そして気づいてしまったルゥへの想い。 その想いに気づいてしまってからは、レジはどのようにルゥに接すればいいのかわからなかった。なんというか、ルゥを見るのが恥ずかしい。 (って、乙女か俺は・・・) 実はこれが初恋であるレジ。意外とピュアである。 「そういえば、昨日俺にも発情期がきた」 「!!」 頭の中でぐるぐると様々なことを考えていたレジを他所に、ルゥがそんなことをダグとノエルに言い放った。 「そりゃ本当か!!」 「ルーファスも遂に大人になったか」 ルゥが余計な事を話さないかとひやひやしているレジの様子に気付いていないダグとノエルは、素直に大人への第一歩を踏み出したルゥに喜びを示す。二人共通常よりも発情期の遅いルゥのことを口には出さないが心配していたのだ。 そして何より大人の獣人になると言うことはこれまで以上に獣人の力が解放される。元々力の強かったルゥなので、どれ程の変化になるのかはわからない。が、ルゥの力が解放されるということは、つまりは獣人達の力も上がることになる。 それこそ獣人の里が今あれば、お祭り騒ぎになっていることだろう。王の力が強ければ強い程、獣人達も里も潤うのだ。 「何か変化はあるか?」 「どうだろ。あんま実感はない」 「まあ本人には意外と分からんもんだからな」 それでもきっと何かしらの変化はある。それもそのうちにわかるだろう。 「それにしても、初の発情期だろう。大丈夫だったのか?」 「そうだぞ。初めてはとびっきりの女の元へ連れていこうと思っていたんだ」 「ん〜」 二人の問いにルゥはチラリとレジを見る。先程からの落ち着きがない様子と机の下で小さくバシバシとルゥのことを叩いていることから、昨日のことについて話さないでいて欲しいのだろう。ルゥはちゃんと空気が読めるタイプだった。 それにルゥとしても、 (尻に指入れられるのは少し・・・) 「知らない人にされるのは、恥ずかしいかもしれない」 「お?なんだルゥ、意外とシャイなとこあるな!」 少し勘違いしているようだが、まあいいだろうと思いルゥは再びスープを口に運ぶ。その横でレジはほっとしたように小さく胸を撫で下ろした。ばくばくと上機嫌でオムレツを食べているダグの隣で、ノエルだけがなんとなく昨日ルゥとレジの間に何かがあっただろうことに気づいていた。 (まあ、別に俺が口出しすることでもないな) ルゥの皿に料理を取り分けてやったりと甲斐甲斐しく世話を焼くレジを眺めながら、自らも手元のスープを口に運ぶ。あからさまに相手を意識しているのが伝わってくるようなレジの様子に、気づいているのが自分だけだと言うのがなんとも面白い。 (獣人は鈍感なのか?・・・いや、こいつらがとびきり鈍いんだろうな) 普通、獣人であるならお互いが発する匂いなどで相手の好意くらいわかるはずだ。ただ、ルゥもレジも、ダグもそうだ、普段から本人達は気付いていないかもしれないがお互いへの好意が垂れ流し状態である。それは親愛や敬愛、家族愛など、様々な愛情が混ざっているが、相手からの好意にある意味慣れてしまっている。 レジがルゥに向けている視線はどうやら少し 違うもののようだが、好意には違いない。なんとも不器用な形ではあるが。 (青臭いな、全く)

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