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その男は

「悪い、待たせたな」 会話が一区切りしたのかレジと、その後ろからレジを怒鳴りつけていた金髪の男が近づいてきた。男は一通り言いたいことを言ってすっきりしたのか先程までの勢いはなく、キリッとした表情でレジの隣に立っている。 「こいつはランス・ギーソン。まあなんだ、俺の弟分みたいなもんだ」 「挨拶も無しにお見苦し姿を見せてすまない」 レジに紹介され、ランスは申し訳無さそうに頭を下げる。登場からレジを怒鳴りつけていたが、別に気性の荒い性格というわけではないようだ。 「随分と立派な軍服を着ているが、軍のお偉いさんなのか?」 近くで見たランスの胸元にはいくつもの勲章が付いており、軍服自体の作りも立派であることからただの一兵卒ではないのは間違いがない。雰囲気からも相当の強さであることは本来戦闘に優れた種族であるダグやルゥ、そしてノエルにもすぐに感じ取ることが出来た。 「ランスは王国騎士団長だから強いぞ!つまりは軍のトップだからな」 「!レジっ、俺は団長代理だ!団長はお前だろうっ!!」 「「は?」」 ランスの言葉にダグとノエルは思わず聞き返す。レジが王国騎士団長?確かにレジの強さには元々気付いていた。獣人の力に目覚める前でもかなりの実力者であっただろう。それに、王国騎士団所属だとも聞いていた。しかし、騎士団長だとは一言も聞いていない。 だが、驚くよりも納得した。門番の反応や城内での自由な振る舞い、王と顔見知りというのも、レジが王国騎士団長という立場であるのなら全て辻褄が合う。 「今はお前が団長だろう。俺は旅に出る前に引き継いだはずだぞ」 「俺は認めていない!」 どうやらレジとしてはその団長の座は既にランスに引き継いだつもりのようだが、ランスは否定する。 団長の座はレジこそ相応しい、自分より強い者の上に立つことは出来ない、そう主張するランスはきっとレジに憧れているのだろう。その事にはレジ自身も気付いている。レジにとってランスは幼い頃から共に訓練に励み切磋琢磨した仲であり、生活を共にしていた弟のような存在だ。近くに居たからこそその実力も認めている。 「お前は既に十分団長を務めあげる実力があるだろう」 「しかしっ・・・」 「俺は旅に出る時に、団長は辞めると決めたんだ」 本当であれば軍も抜けるつもりであった。しかしそれは王の計らいにより、いつ終わるかわからない旅の帰る場所の一つとして残してくれた。最終的にそこに戻ることがなくても、名前を残しておく事くらいは誰も文句を言う奴はいないだろうと言って。 その頃ルゥはなかなか終わらない話に飽きてしまい、こっそり一人でレジ達から少し離れた位置にある噴水の傍に来ていた。ルゥの耳は100m程先の話声ならば聞き取ることが出来る。そのため、もし自分を探し始めたら戻ればいい、そう思い散策に出かけたのだ。 噴水の水はとても綺麗に透き通っており、弾けた水で小さな虹が出来ていた。 「おや、珍しいお客さんがいるね」 水面を覗き込むルゥに近づいてくる人影があることには気付いていた。声をかけてきた男は40代くらいで、目尻の垂れた顔はその声と同じくとても優しい表情をしている。その男はゆっくりと近づいてくると、近くで見たルゥの顔に驚いたようにその目を見開いた。 「驚いた・・・珍しい髪色だと思ったら、その眼の色は・・・」 「??なに、」キュルルルル ルゥが男に向けて声を発しようとした瞬間、遮るように音が鳴った。その高く可愛らしくなった音の正体はルゥの腹の音である。 既に昼過ぎだというのにランドニアに着いてからそのまま王城に来たルゥ達はまだ昼食をとっていなかった。朝飯を食べてからだいぶ時間が経っていることもあり、体がそろそろ次の食事を要求しているようだ。 「・・・腹減った」 「なんだ、お昼はまだなのかい?それはいけないね。何かご馳走しよう」 「肉がいい」 初対面だと言うのにその柔らかな話し方と表情で、ルゥの警戒心は全くと言っていいほど反応していなかった。 男は近くの通路を通った下官らしき人物に声をかける。どうやら食事の準備を頼んでくれたらしい。 「あと三人いるんだけど」 「ああ、お友達がいるんだね。大丈夫、食事はたっぷり頼んでおいたよ」 「ん、ありがと」 金の髪に金の瞳。身につけている衣服も装飾品も派手ではないがどれも作りが細かく上品である。そして何より目に留まるのはその金の頭の上に乗った、宝石の散りばめられた王冠だろう。 「ランドール王国の、国王?」 「ふふふ、よくわかったね」 頭に王冠があれば流石にわかるだろと、目の前でにこにこする男を見ながらルゥは思った。

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