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獣人の想い
「なっ!殿下、何故獣人の王を・・・」
ナラマの突然の発言に驚ろき言葉を詰まらせながらもレジがなんとか尋ねる。同じく驚いた顔をしているルゥの反応から、ルゥが自分で言ったわけではないようだ。
「白い髪に、赤い瞳。ルーファス君、君は獣人の王だろう?」
「・・・そうだ」
白い髪に赤い瞳。珍しいその色は、実は獣人の王の特徴であった。どの時代の王も、全て同じ色を持って生まれてくる。それは獣人達の中では常識であり、交流のある龍人もそのことは知っている。しかし、それを何故ナラマが知っているのか。
「獣人について記された記録は世界に殆どないけれど、ランドールには王だけが見れる書物の中にそれが記されているものがあるんだよ」
ナラマはそれに記されていた獣人の王の特徴として、その珍しい色のことを知っていたらしい。そのようなものがあるとは知らなかったが、元々ルゥが獣人の王であることは話すつもりであったため話が早い。
レジは旅をしていてラナの街でルゥとダグと出会ったこと。そこから獣人の情報を求めて龍人のノエルを訪ねたこと。そして、そこでルゥ達の正体と、自分が獣人のハーフであることを知ったことを掻い摘んで話した。
「龍人が実在していたことにも驚きだが・・・レジナルド、お前も獣人だったとは」
「半分ですがね。俺も驚きです」
「いや、しかし思い返してみると子供の頃からお前は少し他とは違う、変わった雰囲気は持っていたかもしれない」
ノエルが龍人だと聞いた時はかなり驚いた様子だったナラマだが、更にレジが獣人のハーフだと聞きこれまた驚かされる。獣人の王であるルゥに対してはそこまで驚いていた様には見えなかったのに、その二つの事実の方が驚きが大きかったようだ。
全体の経緯をざっくり話し終わった所で、レジはルゥに視線を向ける。ここからはルゥの口から話すべきだろう。
「ランドールの王、俺達は無くなった獣人の里を復活させたい」
先王が亡くなってから力が衰え散り散りになってしまった獣人達、加護を失い荒れた里、なかなか誕生することの無かった王の存在。
「獣人達に、また心安らげる安寧の地を作りたい。里を復活させる、手助けをしてもらえないか」
ルゥはまっすぐにその赤い瞳でナラマを見つめる。ナラマはルゥの言葉を受け、今まで常にあった笑顔を抑え静かに考えた。
ルゥ達が求めるものは里を作る土地と、滅んだとされる獣人が人間と適度な距離を保ちつつ共存出来る環境。
暫くの間考え込んでいたナラマは、ゆっくりと顔を上げた。
「一つ、聞いてもいいかな」
「ん」
そして静かに語りかける。
「獣人達は、ランドールや、他の国を恨んではいないだろうか」
「??なんで」
「先代の獣人の王は、私達人間の起こした戦争で命を落とした」
獣人達がランドールの軍に身を置き先頭に立って闘うことで、ランドールは長年続いた戦争に勝つことが出来た。それはとても喜ばしいことであったが、その戦争のせいで獣人達は大切な王を失ったのだ。戦争に獣人達を引き入れたランドールや、戦争となった他国の人間自体を恨んでいてもおかしくは無い。
その言葉にレジはハッとした。戦争が終わった後に生まれたレジからすると他者から聞いただけの過去の話であっても、寿命の長い獣人達には実際に体験した出来事である。一緒に旅をしていたダグも、当時を知る者の一人だ。
自らの命よりも王を大切だと言う獣人達が、その王を失うきっかけをつくった人間達を恨んでいない方が、おかしいのではないか、と。
ナラマの言葉にルゥはダグと顔を見合わせる。そしてまたナラマへと向き直った。
「恨んでいない。ランドールに手を貸したのは先王の意思だし、戦争で命を落としたのは獣人だけじゃない」
「確かに王を亡くしたことは俺達にとって何よりも辛い出来事だったさ。・・・だが、それで人間を恨むかどうかは別の話さ」
恨んでいない。そうきっぱりと言い切るルゥとダグ。
獣人は自由を好み人間と距離を置いていた。そんな中で戦争に協力したのは先王の意思である。理由は知らないが、自分の意思で協力したのであることは間違いない。そして、悲しくも王は命を落とすことになったが、それ以上に人間達の命を奪った。
「それで自分達だけが人間を恨むのはおかしな話じゃないか」
「しかし、そう割り切れるものでもないだろう」
「まあ、確かに当時は王を亡くした悲しみがあったから獣人達は人間の前から完全に姿を消したのもあるだろうよ。しかしな、獣人が人間を恨んでるなら、俺達には人間を皆殺しにするくらいの力はあるんだぜ?」
「なっ・・・」
ダグの恐ろしい言葉に思わずナラマは息を飲みレジは声を上げる。しかし、実際にそれを実現出来るほどの力が獣人にはあった。何より長年終わりの見えなかった戦争を、たったの100人の獣人の力で終わらせることが出来たのだから。
「しかしそんなことをしても無意味だ。何より獣人は人間が嫌いじゃないからな」
そう、獣人達は人間と距離を置いていたとはいえ、人間が嫌いな訳ではなかった。むしろ好きだからこそ、親しくしてそのもの達が先に死にゆく姿を見るのが辛いからと距離を置いていたのだから。
「なにより、先代の王はかなりのジジイだっただろ?」
「確か獣人にしては400歳を越える長寿だったな」
先王のことをジジイ呼ばわりするルゥにも驚きだが、ダグが言う400という数字にナラマは目を見開く。寿命の長い獣人といえど、300歳を越えるものは珍しい。更にそれを100歳も越えていたというのだから、長寿なんてものでは無い。
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