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一歩前進
「獣人達は今、俺達が把握しているだけで大体300人程だ」
旅をしながらルゥ達が直接見付けた者や、仲間達に探してもらった者達で約300人。それだけの獣人が今世界に散り散りに暮らしている。
「そんなにいるのか」
「最盛期はその倍はいたんだ。まだ見つかっていない奴らもいるだろうが、かなり減ったさ」
先王の時代が長かった分、獣人達の力はそれだけ増していたし里も潤っていた。その為、最大で1000人を超えている時代もあったというが、戦争が続いた100年ほど前から徐々に数を減らし、王を失っていた50年余りで更に急激に数を減らした。
王の存在は生命力に繋がる。王が長生きすればそれだけ獣人達も栄えるし、王を失えば急激に衰える。その為、先王の時代に高齢だったもの達は先王と共に果てていった。
今残っている獣人達は200歳を超えるものは少ないだろう。そして、先王が亡くなってからの70年間の間に生まれた獣人もまた少ない。
「しかし今はルゥがいるからな。里さえ復活して暮らしが安定すれば、また獣人達は数が増えるぞ」
「それでは、里を作る土地には今後を見越した広さが必要だね」
ナラマはダグの言葉を聞き笑顔を向ける。獣人達の暮らしはこれから始まるのだ。今ではなく、これからを見越した計画が必要だと。
「ルーファスの希望としては獣人達と人間達が完全に別の生活ではなく、共存し合えるのが理想なんだろう?」
「ん。獣人の力は戦いの場以外にも活躍出来ることは沢山あるはずだ。そして人間達の力もまた、獣人には必要なことがあるはず」
お互いに力を合わせる事で生まれる新たな力がきっとある。そうルゥは思っていた。
しかし、それと同時に気になっていることもある。
「ランドールに里を作り、ランドールの人間とばかり関係を持つことは、他国とのパワーバランスが崩れて仕舞わないかが気になる」
100人の獣人がランドールについただけで戦争のパワーバランスは一気にランドールに傾いた。戦う為ではなくても、獣人達がランドールと強く結びつきすぎることは、新たな争いの火種となってしまわないか。その事をルゥは心配していた。
「それについては私に任せてくれないかな。いやなに、実は私も伊達にこのランドールの王の座にただ座っているわけではないんだ」
終戦と同時に結ばれた同盟関係。不戦の協定をただの約束としない為に、ナラマを含めたランドールの王達はこの70年動き続けていた。
戦争というものは、時には避けられないことなのかもしれない。しかし、それによってうまれる被害は何もうまない事は長年続いた戦いの中でよくわかった。
戦争など、この世に必要ないのだ。
「有り難いことに今の世を治めている王はどの国も話が通じる者ばかりでね」
「それは殿下の今までの外交の賜物だろう」
「お、レジナルドは嬉しいことを言うね」
勿論皆が皆、初めから全てを受け入れていた訳では無い。数えきれない程の話し合いの場を設け、互いに納得のいく所に落ち着く為に何年も掛かっている。
戦勝国だからと言ってそれだけで優位に立ち続けることは難しい。その後の行動次第でいくらでも立場は逆転するのだ。
それを、ナラマ含めランドールの王はきちんと他国との関係を築きあげた。
ただにこにこと微笑んでいるこの国の王は、それだけの力を持った優秀な王様なのだ。
「とりあえず、この話は流石にすぐに解決する問題ではないね」
「ん」
「王宮内にみんなの部屋を用意するから、今日はゆっくり休みなさい」
城使えの侍女に案内されたのはやたらと広々とした客間。部屋の広さだけで普段泊まっていた宿屋の部屋の軽く10倍はあり、キングサイズのベッドと部屋に合わせた品のいい家具。テーブルの上には果物が皿いっぱいに盛られ、様々な種類の飲み物も揃えられている。
それが一人一部屋用意されているのだから、流石王宮というべきか。
「こりゃ広過ぎて落ち着かねぇな」
「俺、ベッドの上だけで生活出来そう」
部屋を覗いたダグとルゥはあまりの部屋の豪華さに呆気にとられた。長年旅を続けていた二人にとっては野宿は慣れたもの。宿屋の多少窮屈な部屋ですら、休むには十分な場所なのだ。
「普段野生動物みたいな暮らしをしてるんだ、たまには良い暮らしを味わっとけ」
「もし気に入らなければ殿下が他の部屋を用意してくれるさ」
戸惑う二人とは違い余裕の表情で既に寛ぎ始めているノエルとレジ。レジは元々ナラマが育ての親ということもあり、王宮での暮らしの経験もある。軍に入ってからは他の兵士達と集団生活も長かったようだが、騎士団長という立場上それなりにいい生活をしていたようだ。
結局広い部屋に一人だと落ち着かないのか、荷物だけを部屋に置きダグとルゥの二人はノエルの部屋にいた。
「それにしても、ランドールの王の協力を仰げて良かったな」
「ん」
「でも大変なのはこれからだぞ」
これはまだスタート地点に辿り着いたに過ぎない。しかしそれは今までのあての無い旅と比べれば大きな変化である。
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