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模擬戦
「手加減はいらないぜ」
「ん」
ルゥの対戦相手となったのは軍の中でも上位の実力を誇るエドワード。ダグとはまた違ったワイルドかつやんちゃな雰囲気を持つ男だが、鍛え上げられた肉体と剣を構える姿勢からその強さが窺える。
それに比べ手元の訓練用の木刀を眺めるだけで構えも適当なルゥ。周りに集まった団員達もその気の抜けた雰囲気にハラハラとしている。
「エド、舐めて掛かると痛い目見るぞ」
「そうかい?こちらのお坊ちゃんは喧嘩もした事なさそうな雰囲気だけどな」
レジが声を掛けるが完全にエドワードはルゥの事を舐めていた。その綺麗な顔と殺気の欠けらも無い雰囲気から、温室育ちのお坊ちゃんだと揶揄う。
しかし今日の訓練はルゥ達獣人の力を見極めることが目的でもある。変に手を抜いて相手をする事は団長であるランスの意図に反するだろう。それを理解しているエドワードは目の前のルゥへと剣を構える。
(まあ団長達があれだけ言うんだ、少しは楽しませてくれよ)
「始めっ」
「ゥオラァッ!!」
開始の合図と共にその体格からは想像出来ない速さで駆け出したエドワード。豪快な腕の振りに反して剣を扱うスピードもなかなかに速い。素早く振り下ろした剣先は迷いなくルゥの急所を狙っている。
「へぇー、なかなか素早いな」
「あいつは軍の中でも俺とやり合える数少ない人間だからな」
ダグの呟きにレジが答える。しかしそれもあくまで獣人の力に目覚める前の話である。
振り下ろされた剣をルゥは最小限の動きでかわすが、続け様に二打撃めがやってくる。それも軽く後ろに飛ぶことで軽々と避けたことに、周りにいたもの達の驚きの声が上がった。
「っ、目は良いようだな!」
予想していなかったルゥの動きにエドワードは興奮した様に声を上げる。そして更にスピードを上げルゥへと攻撃を繰り出していく。
何度も繰り出される剣を始まった時と変わらぬ表情で軽々と避けるルゥに、徐々に周りから声援が上がり始める。その余りにも軽い身のこなしの綺麗さに、完全にその場にいたもの達は目を奪われていた。
「避けて、ばかりじゃ、終わらねぇぞっ!」
「っと、危ね」
周りの興奮に熱が増してきたのかエドワードのスピードは更に増していく。振り下ろす剣の威力も当たりこそしないが、ブォンっと風を切るその音で十分に伝わってくる。
(確かに攻撃しなきゃ終わらないな。でも・・・)
再び頭上から振り下ろされた剣先より速くルゥはジャンプする。軽い動作で跳んだように見えたが、その高さはエドワードの身長よりも高い。その有り得ないジャンプ力に驚きエドワードの動きが一瞬止まった。そのほんの僅かの隙を見逃さなかったルゥが空中で体を回転させながら蹴りを放つ。
「っ!!」
「俺、剣使った事ないから」
「「「「ぅおおぉぉぉおーー!!!」」」」
ルゥの蹴りにより高く蹴り飛ばされたエドワードの剣が回転して地面に刺さった。それと同時に上がる大きな歓声。誰もが初め想像もしていなかった結果に興奮していた。ルゥは剣を使わずに勝負に勝ったのだ。
急な攻撃に驚いたのか動かないエドワードをルゥは不思議に思いその顔を覗き込む。すると、
ガバッ
「!?」
「なんだお前!めちゃくちゃ強いじゃねぇか!!」
固まっていたかと思うと次はめちゃくちゃ笑顔で肩を捕まれ驚くルゥ。その間もお構い無しに笑顔でバシバシと肩を叩かれ、ルゥは困り顔でダグ達の方へと助けを求める視線を送る。
しかし視線の先ではルゥと同じくダグもまた団員達に囲まれていた。
「なぁ!あんたもあんくらい強いのか!?」
「俺よかルゥの方が強いぞ。まぁ、力だけの勝負なら勝てるだろうが」
「エドさんに勝つなんて獣人すげぇ!!」
「レジさんとあんたらならどっちが強いんだ!?」
「俺なんてまだまだだぞ。まだ獣人の力も扱い切れてないからな」
周りからの質問攻めに合いこちらの様子に気づかない。元々口下手であるルゥは徐々に自分の周りにも集まってきた団員達をどうしたらいいのか分からず狼狽える。
「こらこらみんな、まだ訓練の途中だろう。それに寄ってたかって質問なんてして、ルゥ君が困っているよ」
「殿下!」
集団に向けて声をかけたのは相変わらず笑顔をフル装備したナラマであった。急に姿を表したナラマに向かってつい先程までルゥに群がっていたもの達が一斉に敬礼をする。
その隙をついてルゥはレジ達の元へと逃げた。
「ルゥ大丈夫か?」
「・・・びっくりした」
「みんな単純な奴らだから、強い相手を見ると興奮しちまうんだよ」
悪かったなと言って若干まだ困り顔のルゥの頭をレジは撫でてやる。普段あまり見る表情では無いため可愛いなと思いながら。
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