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その話、詳しく
「王宮の薬室はなかなか凄かったぞ」
昼食の為に合流したノエルはとても機嫌が良かった。どうやら王宮薬剤師達との時間は有意義なものだったようだ。
「軍の訓練も面白かったぞ」
「ほう」
それぞれの午前中の出来事を軽く報告し合いながら昼食をとる。やはりノエルは普段する機会が少ない高いレベルの薬や医学の話が出来たようでご満悦の様子。ちなみにルゥは今日もご飯が美味しいのでご満悦だ。
「帰り際にさらっと言われたんだが、王様がこれからも軍の訓練に定期的に参加して奴らを鍛えて欲しいってよ」
「ああ、それならランスにも言われたよ」
獣人との訓練は団員達に良い刺激となった。なかなか出来ない経験でもあるため、それを活かしたいと思うのも当たり前だろう。
「軍に入れって言われると考えもんだが、たまに参加するくらいなら構わねぇよ。な?ルゥ」
「ん、任せる」
毎日規則正しい訓練生活をするとなると遠慮したい所だが、たまにであればいい。ルゥもそう思った。
午後からはルゥとノエルは今後の話し合いの為ナラマに呼ばれている。ダグは獣人達との情報交換の為に街に行くといい、レジはランス達に午後の訓練を誘われていた。
食事を終えた四人はそれぞれ目的の場所へと向かう。去り際にレジがルゥに何かを言った。
「レジナルドは何を言っていたんだ」
「終わったら、“いい所”に連れて行ってくれるらしい」
「最近あいつもなかなか積極的だな」
ノエルがレジの気持ちに気付いた当初は、本人にまだ戸惑いがあったのか見ていてもどかしいものがあった。しかし最近の様子だと、分かりやすく嫉妬をしたりこうしてデートに誘ったりと積極的だ。まあ、そのくらいではまだ鈍感なルゥには伝わっていないだろうが。
「・・・昨日レジに言われたんだが、」
「どうした」
「レジは俺の事が好きらしい」
「!あいつ言ったのか!!」
見るからに恋愛慣れしていない様子からそういった展開になるのは、まだまだ先だろうとノエルは思っていた。しかしいつの間にかレジが動いていたようだ。
「その話、私も聞いてもいいかな」
「ナラマ」
なにそれ気になる詳しく、とわくわく顔のナラマ。いつの間にか呼ばれた執務室に着いていたようだ。
わくわくした様子のナラマが自ら椅子を三つ並べ、ルゥを真ん中に座らせる。テーブルにはタイミング良く侍女が持ってきたお茶とおやつのケーキが置かれた。
「で、レジナルドはなんて言ったんだい?」
「・・・話し合いの為に呼ばれたんじゃないのか?」
「まあいいじゃないか!」
にこにこ笑顔で催促してくる。これは話すまでずっとこの笑顔で見つめられ続けることになるのだろうか。そう思い逆隣に座るノエルの方を見ると、そちらも聞く体勢が整っている。
話せと言われても何をどう伝えればいいのかわからない。その為、ルゥは昨日の植物園での会話を思い出せる限りそのまま話すことにした。
「・・・ーーーまあ、こんな感じ。返事は急がないって」
一通り昨日の流れを話し終えたルゥは二人の様子を伺う。今までこういった会話を人としたことが無いため、いまいち反応がわからない。
「なんというか、レジナルドは意外と奥手だねぇ」
「全くだ。もっと男なら強引さも必要だろう。なぁ、ルーファス」
「俺に言われても」
レジの告白は二人には少し物足りなかったらしく、何故か不満そうである。ルゥとしてはレジの気持ちを聞きはしたが、別段普段と変わらない様子に安心もした。それは普段からレジのルゥへの言動に好意がダダ漏れだったからなのだが、それに慣れてしまったルゥにとっては日常なのだ。
「本気でルーファスを落とすつもりならもっと強引にいかないと、いつまでたっても抱き枕役で終わるぞ」
「確かにルゥ君は恋愛とかには鈍そうな感じがあるからね」
「・・・」
本人が目の前にいるというのに好き勝手に言う二人。確かにルゥには恋愛というものがよくわからない。レジの事は好きだ。そしてダグもノエルも、ナラマのことも好きだと感じる。しかしそれはレジの求める答えではないだろう。
「恋愛感情だとか、そういうのはよくわからない」
恋愛感情はわからないというルゥ。しかし、ルゥの中でレジが少しづつだが特別な存在になりつつあることに、ノエルは気づいていた。ルゥにとって自分やダグは家族という感覚が一番近いだろう。レジにも近い感情は持っているだろうが、それ以上を求めているように感じた。
獣人の王である事実を認めながら、ただの獣人である事を心の中で望んでいるルゥ。それは獣人には分かりえない感情である。いや、分かりえない感情のはずだった。獣人達には王という存在が余りにも大き過ぎるのだから。
しかしそれを獣人であるレジは簡単に受け入れた。王ではない、ただのルゥを見ようとした。それはルゥの中に大きな感情を抱かせるには十分な出来事であったのだ。獣人では無いノエルはルゥのそのままを見ることが出来る。それはルゥにも伝わっていた。しかし、同じ獣人であるレジがそうしてくれた事が何よりも重要なのだ。
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