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純粋な王
「ルーファス、お前はレジナルドの言葉を聞いてどう思ったんだ」
「俺は・・・」
自分の感情にまだ追いつけていないだけで、ルゥには既に答えがあるのではないか、そうノエルは思った。
「・・・嬉しかった、かな」
昨晩のやり取りを思い返した、ルゥの素直な感情。それは喜びであった。驚きと少しの気恥しさと、何よりも胸の奥底からじんわりと広がる温かさ。大きな喜びを感じていた。
その時の感情が蘇ったのか、いつも雪のように白いルゥの頬がほんのりと赤らむ。そしてその顔が分かりやすく柔らかく微笑んでいる事に本人は気づいていないのだろう。
「ルーファス、お前可愛いな」
「?」
「本当、レジナルドは見る目があるね」
「??」
ルゥの様子にノエルとナラマはただただその柔らかい白髪を撫でる。二人が何故そのような反応をしているのかがわからず、首を傾げるルゥ。その純粋な反応が可愛くて仕方なかった。
「お前はそのまま真っ直ぐに育てよ」
「・・・よくわからないけど、なんだかジジくせぇ」
「そりゃ165歳だからな」
「ナラマも、その生温い微笑みはなんだ」
「いやぁ、いないけど孫と恋バナしたらこんな感じかなぁって思ったら」
可愛くて可愛くて。
その後もしばらくの間談笑は続き、結局本来の目的であった獣人達の今後についての話を始めたのは一時間程経ってからであった。
と言ってもまだ昨日の今日。意見のすり合わせ程度で会話のほとんどは情報交換のようなものであった。
「そろそろ私は嫌だけど執務に戻らせてもらうね、嫌だけど」
「ん」
「俺もちょっと書物庫を覗かせてもらうぞ。ルーファスも行くか?」
「行かない」
残念ながらルゥに読書をする習慣はない。というよりも、文字を見ていると眠くなる。物語自体は嫌いではないが、自分で読むと冒頭で寝落ちしてしまう。小さい頃にはよくノエルが読み聞かせをしてくれたが、ダグはルゥと同じタイプのためここ最近は本を読んだ記憶がない。
執務室を出て直ぐにノエルは書物庫に向かうためルゥと別れた。これといった目的地がある訳では無いルゥは、とりあえず城の中を探検してみることにした。
ナラマには好きに彷徨いていいと許可を貰っており、それは城の中にいるもの達にも伝達されているため特に一人で歩いていても咎められることはない。
しかし、声こそかけられはしないがチラチラと視線が向けられる。
ナラマの主賓という扱いであるルゥ達だが、その正体が獣人であるということがその注目の理由であろう。
見られること自体には慣れているため特に気にすることなくふらふらと城の中を歩き回る。といっても勝手に知らない部屋を開けるわけにもいかず、飾られた装飾品を眺めたり庭に出て日向ぼっこをしたりといつもと変わらない。
(ん?いい匂いがする)
中庭にあったベンチでぼんやりとしていると、どこからともなくいい匂いが漂ってきた。ほんのりと甘く優しいその匂いのする方へとルゥは行ってみることにした。
「ここは・・・」
「ルゥ、探したぞ」
ランスや団員達の希望で午後の訓練にも参加したレジ。元々団長を務める程の実力であったが、獣人の力に目覚めた今の強さは比べ物にならない。それにはレジ自身が一番違いを実感し驚いた。
訓練を一通り終え約束していた通りルゥを迎えに向かった。とっておきのレジだけの秘密の場所、そこにルゥを連れていくため。
てっきりナラマやノエルの元にいると思っていたがそうでは無かった。侍女達の目撃情報を手掛かりにルゥを探していると、意外な場所でその姿を発見することになった。
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