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厨房のアイドル

「ルゥ!これは今が旬の野葡萄のパイとベリーのタルトだぞ!」 「ルゥ君、こちらのチーズケーキも自信作ですのよ!」 「果樹園で採れたばかりのレモネードもありますよ!」 ルゥの周りを囲むのは料理人達と色とりどりのスイーツ。既にテーブルの上を埋め尽くす量のケーキやタルト、ゼリーなど様々なスイーツがあるのに更に追加の皿がやってくる。にこにこと満面の笑みを貼り付けた料理人達の中心で、もくもくと口いっぱいにケーキを放り込むルゥ。 「美味しいですか!?」 「ん」 「可愛い〜!!」 「もっともっとありますからね!」 口元にクリームを付けたままリスのように頬を膨らませた状態のルゥに料理人達はメロメロである。 「ルゥ・・・こんなとこで何やってんだ」 「レジナルド様!ルゥさんにデザートの試食をお願いしたんですが、あまりに食べる姿が可愛くて・・・」 「ついつい私達も作りすぎてしまって」 厨房の入口に呆れ顔で立つレジの存在に気付いた料理人達が恥ずかしそうに言う。どうやらたまたまルゥが厨房にやって来た為出来たてのスイーツを出した所、あまりに食べている姿が可愛かったせいで寄って集ってルゥを餌付けしていたらしい。 その気持ちはレジにもわかる。表情こそ変化の少ないルゥであるが、食べている時は普段より眉と目尻が下がりなんとも幸せそうな顔をする。しかも繊細な見た目に反して異常なまでに底の知れない胃袋を持っているため、手品でもしているかのように次々と皿が空になっていく。それは料理をする人間からするととても気持ちの良い食べっぷりであろう。 それにしても限度というものはある。 「ルゥ、夕食前なんだそれくらいにしとけ」 「・・・まだいける」 「ダメだ」 目の前のタルトを取り上げられて控え目にレジを睨みつけるルゥ。自身でも食べすぎている自覚はあるのか奪い返すようなことはしないが、顔には不満が全面に出ている。 料理人達にもあまり過剰に食事を与えることを注意してから二人は王宮を出た。 「心配はしていないが、食べ過ぎは太るぞ」 「別に。太ったとしても問題ない」 実際にルゥがぶくぶくと太るとは思ってはいないが、何事も程々がいいに越したことはない。そう思って注意したのだがルゥは未だ若干不満げだ。その子供のような膨れ顔にレジは苦笑いをする。 「どこに行くんだ?」 「俺のお気に入りの場所さ」 歩いているうちに機嫌の直ったルゥが街の風景をキョロキョロと眺めながら尋ねる。 ランドニアの建物は柔らかな色合いの石造りのものがほとんどである。商店などになると飾り細工で凝った創りのものが多く、民家は一軒家から集合住宅のような創りまで幅広い。 そしてレジが向かっていた先はそのような建物とは違い、街の外れの方であるようだ。 「塔?」 「ああ、ここは昔使っていた監視塔だ」 今は使われていないらしいそこは街を見渡すことが出来る監視塔。元々の目的としてはランドニアの外から敵が攻めてきた時の為であったらしいが、戦争が終わってからはその役目もほとんど用無しのようだ。塔自体は使われていないが定期的に手入れをしているのか、見た目は比較的綺麗である。 「普段は鍵がかかっていて中には入れないんだ。でも・・・」 そう言ってレジが指さした先には見上げる程の高さに窓があった。 「んー、久々に来たが相変わらずここは見晴らしがいい」 元々が監視塔ということもありレジが言う通り塔の屋上からの見晴らしは素晴らしかった。ランドニアの周囲を囲む豊かな自然を目にしルゥは深く息を吸う。人々がたくさんいる街も良いが、やはり自然は気持ちがいい。 「ここが良いところ?」 「そうだ。・・・そろそろだな。ルゥ寒いだろ、おいで」 「?」 何がそろそろなのかはわからないがルゥは言われるがままにレジが広げたコートへと入る。野宿の際にするように後ろから抱き込まれればレジの熱が伝わって全身を温める。 辺りはだいぶ日が傾き気温も下がっていたが、後ろから伝わる暖かさのおかげで寒さは気にならない。 二人はそのまま暫く目の前に広がる自然を眺めていた。すると、徐々に下がっていた太陽が遠くの山の頂点と重なった。先程までの緑豊かな光景は燃えるような鮮やかな赤い光に覆われ、視界一杯に広がる。 「綺麗だ・・・」 「冬は空気が澄んでるからな。ルゥ、後ろを見てみろ」 レジに言われ森とは逆を振り返る。すると、そこには夕焼けを浴びてキラキラと様々な色に輝くランドニアの街並みが。淡い色合いの建物は綺麗な夕陽を反射し、窓や壁の装飾が宝石のように光っていた。 そしてその中央に佇む一際存在感のある建物。白く繊細な造りのランドール王国の城が夕陽を浴び赤やオレンジ、黄色のグラデーションで綺麗に浮かび上がっていた。

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