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とっておきの風景
「ルゥにこの風景を見せたかった」
「凄く綺麗だ」
今まで旅をしていく中でたくさんの景色を見てきたが、今見た景色はルゥの中でも強く記憶に刻まれる程綺麗な景色だった。
「ここには昔からよく来ていたんだ。一人で何かを考えたい時とかに」
子供の頃はよく自分の中に芽生えた違和感で、家族の元や仲間の元に居るのが辛くなる時があった。大人になってもふとした瞬間に一人になりたくなることも。そんな時、レジはいつもここへ来てこの光景を見ていたのだという。
小さな頃から何度となく足を運んだこの場所は、何時しかレジだけの秘密の落ち着ける場所とあった。いつもここに来る時は一人だったし、誰にも知られたくないという気持ちもあった。
「でも、ルゥに教えたくなった。俺の好きなこの景色を見せたくなった」
自分だけの時間が流れる秘密のこの空間を、ルゥと一緒に味わいたい、そう思いここに連れてきた。自分とルゥだけが知る景色、そう思うと胸がじんわりと満たされていく気がした。
思っていたよりも自分の思考が独占的なことにレジは内心自分自身に苦笑いしつつ、腕の中で赤く染まった景色を眺めるルゥを抱く力を少し強めた。するとルゥはゆっくりと振り返り、レジを見上げる。
「これからは、ここはレジと俺の二人の秘密の場所だな」
レジの内心での想いなど関係なく、ルゥはこの場所が気に入った。そして、レジと二人だけの秘密の場所というのも、何だか嬉しかった。
しばらくすれば日は完全に沈み辺りは真っ暗。ルゥが小さくくしゃみをしたのをきっかけに二人は城へ戻ることにした。
ナラマが用意してくれた服はどれも温かく防寒に優れている。顔の半分程がコートの中に埋もれているルゥの鼻先がほんのりと赤くなっているが、それでも服の中は温かい。しかし先程までの背中から感じる温もりが無くなったのが惜しく思え、ルゥは無意識のうちにレジに寄り添って歩いた。
城に戻ってからはまずは湯で体を温め、ダグ達は既に食事を終えていたので二人で軽く済ませた。デザートには城を出る前にレジに没収されたタルトが出てき、次は没収されないように警戒しながら食べるルゥをレジは苦笑しながら見守った。
午前午後と軍の訓練に参加したレジは疲れこそそこまでなかったが、久々に運動をしたため今夜はよく眠れそうだなと思った。いつもより早めの時間ではあるが部屋に戻ろうとすると、何故かその後ろをルゥが着いてくる。
「レジ、もう寝るのか」
「ん?まだ話すか?」
別段眠気がある訳ではなかった為レジはルゥの頭を撫でながら尋ねた。眠い時は目がとろんとしてくるルゥだが、今は昼間と同じく目がパッチリと開いているのでまだ寝ないだろうと思っての提案だ。
頷くルゥを連れて、レジはとりあえず自室へと向かうことにした。
部屋に着くと履いていた靴を脱ぎ捨て我が物顔でベッドに転がるルゥ。そして部屋を見渡した。レジの部屋は広くて綺麗なことには変わりはないが、ルゥ達に用意された部屋と比べ若干コンパクトに感じた。
「ここは元々俺が使ってた部屋なんだ。といっても軍に入ってからは、あっちの宿舎で生活していたからあんま使ってないけどな」
「ふーん」
どうりで短時間しか使っていない割りにレジの匂いが濃いはずだ。全体的に物が少ないのはレジの元々の性格だろう。クローゼットと小さな本棚、テーブルと椅子、ソファーとベッドくらいしか目立った家具はない。
「城の中は何で温かいんだ?」
「ああ、窓ガラスが二重構造になっているんだよ」
建物自体も外気を通しにくい造りにはなっているが、窓ガラスも二重になっており外の冷気が入りにくい。もっと寒い地域では更に地熱を使った暖房も活用されたりするが、ランドニアの気候であればこれだけでも十分過ごしやすいのだ。
普段旅のためほとんど野外にいるルゥからしたら冬にこの温度で過ごせることは何よりも幸せだった。
「里の建物も同じ構造にすればいいさ。夏も涼しくて過ごしやすいぞ」
「そうする」
そう、このまま進めばルゥの旅はもうすぐ終わる。そうなれば冬も夏も外で野宿する機会は大幅に減るだろう。それだけでなく里が出来れば住処となる家を持つことにもなる。そして周りには獣人達が集うのだ。
「小さい家がいい」
「なんだ、欲がないな」
「広い部屋は落ち着かない。でも、ベッドは大きい方がいいな」
なんならベッドが収まれば他はどうでもいいというルゥ。レジは小さな家にキングサイズのベッドを押し込み、その上で生活するルゥの姿を想像して思わず吹き出した。それは家と言えるのだろうかと。本当に寝ることが好きなのだ。
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