55 / 95

里の候補地

体が温まった所で再び部屋へと戻った二人。時間としてはまだやっと日付けを跨いだぐらいの時刻ではあるが、普段夜の9時頃には寝てしまうルゥからしたらとてつもない夜更かしだ。 「ふぁぁ〜・・・」 「そろそろ寝るか」 「ん・・・」 もう半分程夢の中に足を突っ込んでいるルゥにレジの声は届いているのかどうか。居心地の良い場所を求めもぞもぞとレジの腕の中で体を丸める。眠る時に体を丸めて寝る姿は、虎の姿をしている時の名残だと前に言っていた。 (そういえば今日は耳も尻尾も出なかったな) 「おやすみ、ルゥ」 「ん・・・」 いつも通りの綺麗な丸い頭を撫でながら一度だけ見た白い獣耳と尻尾を思い出す。あの時は初めての感覚に、つい耳と尻尾が出てしまったと言っていた。そして獣人なら誰でも耳と尻尾が出せると。 「俺にも出せるって、ことだよな?」 やはりそれは狼の耳と尻尾なのだろう。自分にそれらが現れた姿を想像してみると、なんだか不思議な感じがした。そして次に想像したのは熊の獣人であるダグの姿。 ・・・おのゴツい体に熊の耳と尻尾というのは些か可愛すぎる気がする。 腕の中ですぅすぅと静かな寝息を立てるルゥの獣耳姿は、虎というよりも気まぐれな猫のようでとても愛らしかった。今も普段の大人びた表情からは想像出来ないほどにあどけない顔で眠る姿は、可愛くて仕方がないのだが。またあの獣耳姿をじっくり見たいとレジは思った。 (頼んでみるか) 完全に虎の姿になった状態も気になる。またタイミングを見て頼んでみよう、そう思いレジも眠ることにした。 いつもと同じルゥを腕に抱いた状態。しかし今は二人の関係がこれまでとは少し変わった。片想いの相手から両想いへとなった今、腕に抱く温かさがより一層愛おしい。 その日、ルゥとレジの二人はとても幸せな夢を見たという。 「私の方でいくつか獣人の里の候補地を上げてみたんだけどね」 ここ数日の日課となりつつあるナラマの執務室を訪れたルゥに、ナラマが地図を広げてそう言った。 地図を覗き込んでみるといくつか赤い丸で印された箇所がある。そのどれもが、比較的王都ランドニアから近い位置に面していた。 「里を作るにあたって国民達への伝達や対応は勿論しっかりフォローするつもりだけど、やはり出来れば近くに居てくれた方が問題があった時の対応がし易いかなと思ってね」 「俺はそれでいい」 昔の獣人の里は人里離れた所にひっそりと隠れ住むようにあった。しかしルゥは人々との繋がりを持ちたいと思っているので、王都が近くにあるというのは特に問題がなかった。近いといっても人間の足なら早くて二、三日、馬でも半日はかかる距離である。 ナラマが候補として上げた土地はどれも周囲は川が近くにあったり、湖があったりと生活面の配慮も窺えた。 「里が完成したら、是非獣人のみんなには街で職に就いて貰えたらと思っていてね」 「職?」 「そう」 その優れた身体能力を活かせる仕事、腕力を活かした土木建設業や脚力を活かした運搬業、狩りの腕を活かした狩人など。人間達に混ざりその力を貸して欲しいという。 「君達獣人は土地と職を得る。そして私達は優れた労働力を得る。それが私から国民に獣人達の存在を受け入れさせるための策でもある」 今までいないとされていた存在が急に現れるのだ、流石に混乱が全くないという訳にはいかないだろう。だからこそ、しっかりとした役割があった方が人間達は受け入れやすいのではないか、そう考えての案であった。 ランドールにおいて獣人は戦争を勝利へと導いた種族である為、そこまで悪い印象を持つものは少ない。だが、戦争から年月が経っているからこそ、その物語に出てくるような存在に恐れを持つものも少なからずいる。 その得体の知れない存在がただ自分の近くにいるという状態よりは、生活の一部としてしまった方が受け入れやすいだろう。ナラマの言うことにルゥは納得した。 「わかった。元々獣人には何か役割が必要だと思っていた」 「それは良かった!ちなみに何人か軍の指南役にも来てくれると嬉しいな」 「考えておく」 軍に入るのではなく、指南役という所がナラマの配慮であろう。もし再び戦いが起こった時、人間同士の戦いに獣人を巻き込むつもりはないという。 「まずはこの候補地を見て回ってみるところからかな」 「ん、明日にでも見てくる」 人間の足なら見て回るだけで数週間かかるかもしれないが、ルゥが直接行けば日帰りでも見て回れるだろう。 「いいなぁ、私も一緒に行きたいけど、獣人のスピードには馬でも着いていくのは大変そうだね、、」 確かに馬では通れない道もある。しかし残念そうなナラマの表情にルゥは一つの提案をした。

ともだちにシェアしよう!