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王様は大人気
「美味いな!」
「おかわりもあるのか?!」
「まだまだありますよー!」
配られた食事に朝からの作業で空腹だった獣人達は一斉に食らいつく。エド達が運んでくれたのは米やパンなどの主食と、芋類など腹持ちの良い食材がメインであった。
「ルゥ君達が城を出発した後に、まだ開拓中の里じゃ食事に困るんじゃないかって団長が言い出して」
「急いで食材集めて馬でかっ飛ばしてきたんだぞ」
かなり飛ばしたのに4時間近くかかったと若干疲れ気味のエドとレオ。王都からの距離を考えると休憩も挟まずに走り続けてくれたのだろう。
食事についてすっかり忘れていたルゥ達としてはこの差し入れはとても有難かった。
「そりゃランスにも感謝しないとなぁ」
「ん」
普段から野営などの訓練をしているからかエド達は野外での料理の手際もなかなかに素晴らしかった。ルゥ達も肉を捌いたりと手伝いはしたが、ほとんどはエドとレオと数人の獣人の女性陣の手によって完成された。
獣人達の男女比はそこまで差がない。しかし女性といってもやはり獣人は獣人。その身体能力も腕力も人間の男達と比べても比較にもならないだろう。
「ルゥ、この料理私が味付けしたの。良かったら食べてみて?」
「ん」
「あ、ずるい!ルーファス君、これも!これも美味しいわよ!」
「ん」
「「「「可愛い〜っ」」」」
そんな女性陣を独り占め状態でプチハーレムを形成しているルゥ。みんなこぞってルゥに自分が作った料理を食べてもらいたくて一生懸命だ。そして空腹だったルゥは勧められるがままに次々と料理を口に放り込むため、頬がパンパンに膨れている。その姿がまた、お姉様方には好評で盛り上がりに盛り上がっている。
「作業中は作業中で男共がルゥに良いとこ見せようと群がってたし、人気者は忙しいな!」
ガハハとその様子を眺めながら豪快な笑い声を上げるダグ。エド達もルゥが獣人の王であることは聞いていたが、その人気がここまでであることには驚きであった。しかし、王という立場が無かったとしてもルゥの見た目の良さと、つい構いたくなる性格を知ってしまえば同じ状況であっただろうとも思った。
「まあどんだけアピールしてもルゥはレジにしか興味がないから笑うよな」
「レジさんがこの場にいたら発狂しそうっすね」
「あぁ〜あいつ意外と独占欲強いもんな」
距離感近めの獣人達がルゥにその豊満な胸を押し付けつつ群がる姿を呑気に眺めるダグ達。どんだけアピールされようと目の前の食事にしか意識が向いていないのが面白い。
そしていくらルゥが反応を見せなかったとしても、もしこの場にレジが居たら全力で拗ねている姿が簡単に想像出来る。ルゥの立場は理解しているため邪魔をすることはないが、その分面倒臭い程全力で意地けるだろう。
それも歳上かつ二人の関係を近くで見守っているダグからしたら可愛らしいものである。
「軍の方で王都からここまでの道の整備も検討してるんだ」
「おぉ!それは有難いな!」
獣人達はその足を使って森の中を最短の道なき道を選んで突っ切るが、人間達にはそうはいかない。今後のことを考えると王都や他の街からも人々が訪れる機会もあるだろう。そう考えれば道の整備は必要不可欠であった。
流石に直線で繋ぐことは難しいが、整備された道があれば馬での移動も楽になる。そうなれば馬車で多くの荷を運ぶことも出来、今日のように休憩なしで4時間走り続けるということも無いだろう。
「橋も完成して道まで出来りゃ、一気に距離が縮まるな!」
その頃ランドニアでの職場体験組の獣人達も丁度昼休憩を取っていた。獣人達の能力がどこに向いているかを見極めるために、街中の様々な職場に分散している。レジはそのリストを元にそれらの職場に足を運びその様子を見て回っていた。
「おう団長さん!見回りか、ご苦労さん!」
レジが顔を出したのはランドニアでも長く商売を続けている古株の街大工の倉庫であった。そこの棟梁は日に焼けた肌が健康的な陽気な男であり、王城へも定期的に設備の補強や点検で訪れていたためレジとも顔見知りである。
「親父さん、俺はもう団長じゃないっすよ。それより彼らの様子はどうですか?」
「おっと、そうだったな!いやー、凄い奴らを連れてきてくれたな。俺達の仕事は力仕事が殆どなんだが、ありゃ鍛えられ方が違うのかねぇ。一人で何人分も作業が進んじまうよ!」
ま、技術面はやっぱ素人だけどな!とガハハと豪快に笑う棟梁。一応獣人であることはまだ伏せているため力は抑えた状態にするように言っているが、それでもその力はかなり役に立っているようだ。
陽気な棟梁の話が止まらなくなる前にレジは次の職場へと足を運ぶ。
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