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不思議な気持ち
街中に散った獣人達の様子を見て回っていたレジは広場で一息ついていた。どの職場でも特に目立った問題は無く、むしろ高評価を得ていることが多い。
どうやら獣人達は人間の生活に紛れることが上手いようだ。というのも、ルゥが旅をしつつ獣人達を集めるまでの間、里を離れた獣人達は人間達に紛れて生活をしていた。普通の人間と比べなかなか歳を取らないため一つの場所に留まる事は出来ない分、様々な職場や土地での生活を経験したことになる。
その為かレジがわざわざ街の人々との橋渡しをする必要がない程にすんなりとランドニアの街に溶け込んでいた。
(獣人ってのは、意外と器用なんだな)
レジ自身もずっと人間達の中で生活していたが、それはレジが自分の正体を知らなかったので何の不思議もない。しかし獣人達はみんな、自分の正体を上手く隠し力を抑えた状態でいることに慣れていた。
実際元々見た目では区別がつかないので、獣人であることを公表せずに里を作って暮らすことも可能だろう。しかしそれではルゥが求める獣人の在り方に反する。
獣人が獣人であることは、隠さなければいけないことではない。
ルゥはそう言った。そしてレジ達もそう思った。正体を隠しておくことは簡単だが、あえてそれを公表する。そして、正体を知った上で受け入れられ共存するというのがルゥの目指す今後の獣人の在り方であり、人間達へ求めることだ。
(このまま上手くいってくれればいいが)
既に獣人の王であるルゥとランドール王国の王であるナラマが手を組んでいるのだ。あまり心配はしていないが、国民達の反応を予測するのは難しい。
(それにしても、ルゥは昼飯食ったかな)
先程露店で買ったパンにパテを挟んだ食べ物を大口を開けて齧る。分厚い肉からは肉汁が溢れ、間に挟まった野菜と蕩けるチーズとの相性は抜群である。すぐに一つ目を食べ終わり二つ目の包みを掴む。
(これルゥが好きそうな味だな。今度連れてきてやるか)
本人が居なくてもレジの頭の中はどこまでもルゥのことでいっぱいだ。
それにしても、レジは不思議な感覚を味わっていた。以前は長年住んでいるにも関わらず違和感を感じ続けていたこのランドニアの街が、今はその違和感を感じない。それはルゥという獣人達が本能で求める居場所が今は身近にいるからなのだが、同じ街をこんな気持ちで見れる日が来るとは思っていなかった。
これからも帰る場所はここでは無いが、レジの中ではランドニアは大切な場所であることには違いない。そこに今後は獣人として新たな居場所が出来ると思うと胸が高揚する。
「さて、もう一回りするか」
離れた地で開拓を頑張っているであろうルゥを思い浮かべながらレジは腰をあげる。今自分に出来ることは任された仕事をこなす事。
少しでもルゥの役に立つべくリストの残りを回る。
「今日はこれくらいにしよう」
日が沈み始めたことでルゥは周囲の獣人達に声をかける。木々が生い茂っていた土地は一日で王都の広場程の平らな地面が出来上がっていた。その周囲に積まれた丸太の山もなかなかの量である。
朝から作業を続けていたため流石に疲れた。そしてそれぞれがこれから寝泊まりをしている場所まで帰ることを考えれば、本日の作業はこれで終了した方がいいだろう。
「ルゥは王都まで帰るのか」
「俺達は面倒なんでこの辺で野宿するぜ」
「酒でも持ってくりゃ良かったな〜っ」
明日も開拓作業のある何人かの男達はこのままこの近くで野宿をするらしい。食料は昼間にエド達が運んでくれたものがある。久々に多くの仲間たちと会えた気分の高まりもあって解散するのが惜しいのだろう。
ルゥやダグも誘われたが報告も兼ねて城に戻る必要があるので断った。
「明日は、食料と一緒に酒も運ぶか」
「そりゃみんな大喜びだろうな」
ランドニアへと戻る者達を引き連れ森の中を進む。里が完成すればこの移動もしなくて済むと思えば、なんだか不思議だが楽しみである。
「城の広い部屋にも慣れてきたけど、やっぱり俺の家はあまり広く無くていいな」
「ルゥは欲がないなぁ〜。ま、気持ちはわかるけどな」
整地が終われば本格的に家の建設も始まる。即席のものではなく長く住む家となればしっかりした計画の元で作業を進めなくてはならない。流石に素人だらけでは限界があるため、王都から助っ人が来てくれる予定であった。何から何までナラマには世話になりっぱなしである。
「ルゥ、良かったら私の泊まっている宿に来ない?広くて綺麗なのよ」
スラリと背が高く引き締まった健康的な身体をした、長い髪が美しい女性がルゥに腕を絡ませながら誘う。彼女の名前はファーネスといい、あまり他人の見た目に興味の無いルゥからしても綺麗だと思う女性だった。
彼女だけでなく獣人達は基本的に情熱的なのでアピールがストレートである。ファーネス以外の女性陣も次々とルゥに誘いの声をかける。そしてそれは男性陣にも言えることであった。
「我らが王を独り占めなんてさせるかよ。ルゥ、俺達が楽しい夜を過ごさせてやるぜ?」
「そうだぞ!こわーい肉食女子の所なんて行ったら酷い目にあうぞ!」
「なによ!あんた達のようなむさ苦しい男達に囲まれるより私達の方がいいに決まってるでしょ!」
大好きな王と少しでも一緒に過ごしたくて仕方ない獣人達が、ルゥを巡って言い合う。決して仲が悪い訳ではないが、皆どうしてもルゥの事となるとムキになってしまうようだ。
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