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睡眠時間は削れない
「そんなことがあったのか。流石の人気だな」
「人気過ぎて困ったもんだぜ全く、なかなかあいつらも諦めないんだからなぁー」
「だから帰りが遅かったのか」
城に戻ると先に戻っていたレジとノエルに出迎えられた。二人ともルゥとダグが戻るまで待ってくれていたようで、少し遅めの晩御飯を揃って食べながら先程の出来事をダグが話す。
ルゥから離れたがらない獣人達は、いくら明日もこれからもいくらでも会えると言ってもなかなか聞かない。それどころか世話係として赤ん坊の頃からルゥと共にいたダグに、噛み付く勢いでさえあった。
「俺達はやっと!念願の王と一緒に過ごせるんだぞ!」
「少しくらい我儘言ってもいいじゃないかー!!」
「もっとルゥを味合わせろー!!」
そう駄々っ子のように主張する獣人達には本当に参った。そのほとんどがルゥよりも歳上で、なんなら100歳を越えた者も多いというのに、みんなイヤイヤと帰りたがらない。
ルゥも自身に抱き着いて帰さないアピールをする獣人達をどうしたものかと考える。好かれていることは嬉しいが、流石にこの状態は困ったものだ。
「里が完成したら宴をしよう。だから、今日は・・・」
「今日は、ダメ?」
「帰っちゃう?」
「まだ夕方だぜ?」
「・・・」
全身で帰らないでアピールをされ流石に黙ってしまう。夕方だと言うが、寝るのが早いルゥにとってはあと数時間後には寝る時間だ。獣人達の望みを聞いてやりたい思いもあるが、初日からこれでは今後も毎日同じやり取りをすることになるだろう。
ルゥが本気で “帰れ” と言えば従うのはわかっているが、それはしたくなかった。しかし今日は早めに城に戻って報告を済ませたら、今朝は早起きだったのでさっさと寝てしまいたい。
「週に一度、みんなで宴会をしよう。その代わり、他の日は早く帰って寝る。そして今日は寝る日」
それがルゥにとってみんなと約束できる最上級の提案であった。基本的には夜は早く寝たい。ただ、日中に里の開拓の作業があるのでみんなとの交流は夜に時間を取るしかない。そうなれば週に一度の宴会、それ以外の日は寝る。
「ほら、ルゥがこう言ってんだ。今日は大人しく帰りな」
獣人達は渋々ながらルゥが週に一度の宴会を約束してくれたことで、今日は大人しく解散することにした。明日も会うというのに今生の別れのように挨拶をしてくることに苦笑しつつ、やっとの思いでルゥとダグは城へと戻ってきたのだ。
「だから明日職場体験組にも宴会のことを伝えておいて欲しい」
「全員に言っておかないと仲間外れだと拗ねるからな」
「了解したぜ」
その後公務を終えたナラマに今日の報告をし、ルゥはいつもより少し遅いが無事にベッドに潜り込むことに成功した。
「レジ」
「はいはい、もう行く」
いつの間にか一緒に眠ることが当たり前になったルゥとレジ。荷物の整理をしているレジに早く自分の傍に来るように催促する。ルゥのおかげですっかりレジも早寝の習慣が身につきつつある。
作業を終えたレジは毛布に包まりうとうとしているルゥの元へと行く。出会った当初より少し伸びた癖のあるふわふわの髪を撫でる。ギリギリで起きている状態のルゥがうっすらと瞼を開き、その赤い瞳でとらえた自分より太い腕を掴んでベッドへと引きずり込む。
「おっと、」
「遅い」
「悪い悪い」
眠さのせいかレジがなかなか来てくれなかったせいか、若干ぶすっとした表情をするルゥの頭を優しく撫でる。相変わらずナラマが用意したもこもこの最高級の部屋着に身を包んだ体を抱え込み、乱れた毛布をしっかりとかけ直す。
もぞもぞと落ち着く体勢を探し、いつものように丸まった姿勢に落ち着いたらしく動きが無くなる。
レジは一日離れた所にいて明日からも暫く別行動のルゥと、少しでもいちゃつきたい気持ちがあった。が、完全に寝る体勢のルゥを起こすのは可哀想である。抱き締めた体をそっと撫でてみたり、目の前のふわふわの髪に鼻先を埋め我慢する。
すると、もぞっと小さく動いたルゥが眠そうな眼をしてまま、ちゅっとレジの唇にキスをした。
「これで我慢しろ」
「・・・もう一回」
「もう寝る」
そう言うとまたレジの胸元に顔を埋めてしまった。軽く揺すってみても、もう顔を上げることはなくそのまま小さな寝息が聞こえてくる。
レジは小さく溜め息をついて諦めた。
「・・・生殺しだ」
可愛くてこれ以上文句は言えないが、せめてあと一時間、寝る時間が遅くならないかとレジは思った。
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