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暖かな陽射し

ルゥ達が開拓を始めて一週間。土地の整地がある程度出来た所で、里の設計図を持ったノエルやランス達が作業に加わった。 「なかなかな土地の広さだな」 「さぁ、手っ取り早く作業に取り掛かるぞ」 ノエルの指示の元、獣人達と軍の人間達が手分けして家の基礎を作っていく。ダグが指揮をしていた橋の設置は一足先に完成しており、里の方の作業へと加わっていた。 「ほらデカブツ共、ちんたら動いているといつまでも終わらないぞ」 「ノエル!ちょっと獣人使いが荒いんじゃないか!?」 「こき使っても大丈夫なのがお前らの特徴だろう」 ダグを中心にガタイの良い獣人達がノエルに重労働ばかりを押し付けられ文句を言う。と言っても、太い柱を持ち上げたり岩を運んだりといった作業は普通の人間には簡単に出来る作業ではないため、ダグ達が率先して動くしかない。 ランス達軍の人間は壁や屋根に使う材木をサイズに合わせて加工していく。逆に獣人達は揃いも揃って大雑把な者が多いため規格の決まった繊細な作業は向いていない。 「で、俺は何をすればいいんだ」 「ルーファス、お前は家の周りに植える花でも探してこい」 「・・・」 何故かこれといった作業を与えないノエルによってルゥはぶっちゃけ暇を持て余していた。 しかしどの作業もそれなりに人手は足りており、ルゥが手伝おうとしても笑顔で休んでいてくれと言われてしまう。 かと言ってノエルに言われた通り花をつみに行く気にもなれず、ルゥはアミナスの木の根元に腰を下ろした。里の中心になる予定のそこからは忙しく動き回るみんなの姿がよく見えた。みんなが働いているなかで一人休憩していることに少し気が引けたが、冬にしては温かい陽射しが降り注ぐそこにいると気付けばルゥはうとうとし始めていた。 「寝たか」 その様子を横目で観察していたノエルは小さく息を吐く。里の開拓を初めてからというもの、表面上はいつも通りに見えるが明らかにルゥは疲れていた。 元々気が向くまま、自由に振舞っているように見えてルゥは周りの意向を大切にする。この一週間も里の復活と獣人の王という何よりも尊い存在に、気持ちの昂った獣人に囲まれて一日を過ごしていたのだ。本人には自覚は無いようだが気疲れというのだろうか、食欲も若干だが落ちていたように思う。 レジによると夜はどうにかちゃんと眠れていたようだが、休息が必要なことには変わりない。 (一番傍若無人が許される者が、それを上手く出来ないとはな) せめて息抜きとして好きな草花の探索や昼寝でもと思い、ダグ達にもこっそり今日はルゥを休ませると伝えておいた。 思惑通り昼寝を始めたルゥにはこのまま昼食の時間頃までは眠っていて貰いたい。王様大好きな獣人達が変なちょっかいをかけに行かないようにだけ目を配らせておこう、そうノエルは思った。 「ルーファスが見てないからって手を抜くんじゃないぞ!なんなら完成させて驚かすくらいの勢いでやれ!」 「「「「おぉぉぉ!!!」」」」 眠っているルゥを視界に入れつつ若干小声での気合いの入った掛け声が飛び交う。 ノエルとランスの的確な指示の元、住宅となる家の建築は順調に進んでいた。外観には元の里を知る者達の意見を取り入れつつ、その構造や機能には新しさも取り入れる。 目安としてはあと一ヶ月以内には獣人300人が暮らせる規模の集落を完成させるつもりで計画している。それにはなかなかのハードスケジュールであるが、モチベーションの高い獣人達の力でどうにか間に合うだろう。 作業の区切りが良いタイミングで何人かは昼食の用意をし始める。初日には食事のことをすっかり忘れていたが、翌日からは保存出来るものをメインにある程度の食料を運んでいた。 「お疲れ。大分進んだな」 「お!街の方はいいのか、レジ」 「一通りみんな顔合わせは済んだからな」 指揮を取っていたランスに声を掛けたのは、ランドニアで職場体験をしている獣人達に付き添っていたレジである。獣人達の適応力もあってその任務が一段落したため、里の開拓の方へとやって来たのだ。久々に里の現場に来たレジは、その変わり様に驚く。 一週間前までは人の手が加わっていないただの森であった。そこに開けた平らな地面ができ、まだ基礎だけの未完成であるがいくつもの家が建ち始めている。 「ランス達にもたくさん協力してもらって悪いな」 「何を水臭いことを言う。レジの仲間は俺達の仲間だ、協力くらいさせろ」 「ははっ、ほんと感謝してるさ」 本来なら騎士団長という立場のランスが直接この場に来て指揮をとることはない。しかし、小さな頃から訓練を共にし生活を共にしていたレジと、その家族といえる獣人達の為にと自ら協力を名乗り出てくれた。それは騎士団員達も同じで彼らにも感謝の気持ちでいっぱいである。

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