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幸せを願う
「あ〜ルゥ寝てる!」
「もっと喋りたかったのに!」
「俺なんて乾杯くらいしか話せてないぞ、、!」
ルゥが寝ていることに気付いた獣人達がレジの周辺に集まってきた。みんなまだまだルゥと話をしたかったようで残念そうな顔をしている。しかし残念そうな言葉とは別に、何故かその表情はとても柔らかい。
『俺達(私達)の王様の寝顔可愛い〜!!』
みんなルゥの寝顔の可愛さにめろめろなのである。によによとした顔で覗き込んでくる獣人達はみんなとても幸せそうな顔をしている。
「なんかこうやって近くにルゥがいると、本当に俺達の元に王が戻ってきたなぁ〜って思うよな」
「ほんとほんと!やっぱこの満たされた感じ?幸せだよなぁ〜」
しみじみとそう漏らすのは先代の王を知る獣人達。王のいる喜びも、王を失う悲しみも両方を知っている彼らにとって、今こうしてルゥが自分達の傍にいることはこの上ない幸せなのだ。そしてそれはこの70年の間に生まれた、王を知らないもの達にとっても同じであった。
「初めてルゥに会った時、世界ってこんなに明るかったんだなって思ったよ」
「まだ10歳やそこらの子供だったのに、ほんと、神様かと思ったなぁ」
「ははっ!俺は天使だと思ったぜ!」
本当に獣人達はルゥが存在するというだけでそれほどまでの幸せを感じていた。別に王に何かを望むわけではない。何かをして欲しいわけでもない。ただ、長生きしてくれれば。
そう思うと同時にその想いが王の、ルゥの負担になっている事も獣人達は気づいていた。特別な存在でありながら、普通を望むルゥ。その想いに応えたい気持ちと、王であるルゥに惹かれてしまう気持ち。それは彼らの本能であり、自分の意思でどうにかなるものでもない。
それに比べ名前で呼ぶことや敬語を使わないことは簡単だ。
「むしろ王との距離感が近く感じて嬉しいわよね」
「そうそう!」
先王はかなりの高齢でもあったため、どうしてもそう気軽な存在とはいかなかった。しかしまだ未成年者であるルゥは王として尊いながらも、子供のような弟のような可愛さがある。
そんなルゥの危うさも知っている獣人達にとって、ルゥとレジとの関係は喜ばしいものであった。すでに十分であるというのに一生懸命にみんなの望む王になろうと必死に藻掻くルゥが、素直に甘え年相応の姿をさらけ出せる存在。出来ればその存在に自分が、と思わないわけではない。しかしそれを選ぶのは王であるルゥであり、ルゥの意思を否定する者はいないのだ。
ルゥが幸せであることは言葉にしなくても獣人達にはわかる。
「王を悲しませた時も俺らには筒抜けだからな」
「そうだよ!そんなこと許さないからねぇ〜!」
釘を刺すようにレジにそう言うのは確か、イルダとカイオス。それに同意するように周囲のもの達もうんうんと頷く。
「おいおいみんな、あんまレジを虐めてやるなよ。レジはルゥを悲しませることなんかしないさ」
「こいつはヘタレだからそんな度胸もないだろうがな」
フォローに入ってくれたダグとにやにや顔のノエル。確かに恋愛面において、思い通りにならない自分のダメな部分も自覚しつつはあるので否定出来ないレジは、悔しそうにノエルを睨む。が、軽く鼻で笑われてしまう。
「・・・俺はルゥを悲しませるつもりは微塵もないさ」
それだけは、自信を持って言える。勿論獣人であるレジが王であるルゥを裏切ることがないことは、言葉にするまでもなくみんな理解している。しかしそれが無かったとしても、レジはルゥを幸せにすると誓うだろう。
「ん・・・」
小さく身動ぎをしたルゥ。酒のせいかいつもより若干体温が高く頬がほんのり赤い。口角が僅かに上がっているため微笑んで見えるルゥの口元から漏れる小さな寝息がレジの首筋にかかる。
ルゥが寝落ちした後も宴会は続いた。初めは声を少し落とし控え目に騒いでいた彼らも、酒の力で気づけば普段よりも大きな声で陽気な様子。それでも目を覚ますことなく寝続けているルゥの寝顔は、どこか楽しそうだ。
「この五月蝿さの中で寝れるなんて、ルーファスはなかなか図太い神経してるな」
「ははっ、まぁ酒もかなり飲んでたし疲れもあるからだろ」
「全く、レジナルドも獣人達も揃いも揃ってこいつに甘い」
レジの隣に移動して飲んでいたノエルがルゥの頬をつつきながら手元の酒をぐいっと煽る。かなりの量を飲んでいるように思うが、その表情はいつも通り涼しいものでまるで水を飲んでいるのかと疑いたくなる。
「ルゥに甘いのはノエルも同じだろ」
「まぁな」
結局はみんなルゥに甘いのだ。
「ようっ!二人共酒足りてるか?」
そこに酒瓶を持ったダグが合流する。ドカッとレジのノエルとは逆隣に座り、上機嫌の笑顔でわしゃわしゃとルゥの頭を撫でる。その遠慮の無い撫で方に若干嫌そうにレジの方へ抱き着く力を強めるルゥは、それでも起きる気配はない。
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