69 / 90

酒は程々に

宴会の翌日は元々一週間続けて作業を行っていたので丸一日休養ということになった。 夜中まで騒いでいたもの達がほとんどの為、普段よりもゆっくりとした朝を迎える。 「・・・頭いてぇ」 同じく今日は休みを貰っている王国騎士団長のランスはズキズキと響く頭の痛みで目を覚ました。酒には強い方だと思っていたが、獣人達に付き合ってどうやら飲み過ぎたようだ。 「ゔ・・・」 「酷い顔だな」 「あんたも大概だぜ」 傍で眠っていた軍の仲間達も徐々に目を覚まし始めたようで、すぐ隣にいたエドが呻きながら体を起こした。ランスと同じく二日酔い状態なのか、その顔色は優れない。 休みとはいえ国の護衛を担う存在であるため、一日ここでだらだらと過ごす訳にはいかない。いざと言う時の為にランドニアの街に戻っておく必要があるのだ。 「よ、起きたか。朝飯出来てるぞ」 「今日の朝食は昨日の残りと、さっき捕ってきた魚」 「・・・獣人には二日酔いはないのか」 ランス達のテントへとひょっこり顔を出したのは昨日の酒の影響など全く感じさせないレジとルゥの二人。二日酔いどころか、朝から魚を捕りに行っていたというのだから恐ろしい。 二人に続いてテントを出ればかなりの数の獣人達が元気に朝食をとっていた。どの顔も酒が残っている様子は全くない。 「そういやランス、俺達も王都に一度戻るよ」 「ナラマに報告に行く」 「そうか」 ルゥがまた獣化してランドニアまで乗せて走ろうか?と聞くが、ランスは丁寧にそれを断る。歳下とはいえ獣人達を率いる王であるルゥの背中に何度も乗ることに躊躇いがあったのと、二日酔いの為万が一粗相があっては困るからだ。 朝食をとり終え騎士団員は出発の準備をする。どうやら王都に向かうのはレジとルゥ、ダグとノエル、そして四人の獣人が一緒に向かうらしい。 「じゃあ俺達は先にひとっ走りして王都に向かうぞ」 「ああ、俺達のスピードに合わせてたら、折角の休みが勿体ないだろう」 スピードの違いを考えランス達とは別々で移動することにした。半獣化していない状態でも獣人の走るスピードは馬をも超えるのだ。 「無理すんなよじいさん」 「誰がじいさんだ!沈めるぞ!!」 ダグが冗談でそう言えば青筋を立てたノエルがその脳天を思いっきり殴りつける。ノエルが怒るのをわかっていて言うダグもダグだが、普段は冷静なのに毎回しっかりとキレるノエルもノエルである。 龍人は獣人以上に謎が多いためその力などはほとんど知られていないが、身体能力も並外れたものである。 「ダグとイルダは親戚なのか」 「おうよ!同じ種族の獣人同士は血が繋がっている場合が多いな」 「まぁ結婚やらなんやらで全員が同じってわけじゃないけど」 同じ熊の獣人同士であるダグとイルダの場合は関係性でいうと従兄弟にあたるらしい。褐色の肌とガタイの良さ、豪快な雰囲気といいとても似ているため納得である。 そして、 「レジは狼だろ?ってことは俺と同じじゃーん!仲間仲間!お兄ちゃんって呼んでいいよぉ〜」 「・・・まぢか」 ノリの軽さはピカイチ。にやにや顔で肩を組んでくるいかにも遊び人という雰囲気のカイオスにレジは若干引き気味である。しかもその年齢は120歳と、意外と年長組に入る。 そして何よりもレジが気になっていることがあった。 「ル〜ゥ〜!今日も可愛いなぁもぉ〜!!」 そう言いルゥに抱き着くカイオス。その様子に性的な要素は無く、ただただ小さい子供を愛でる雰囲気ではある。ルゥも慣れているのか執拗い抱擁に鬱陶しそうな表情はしつつも、半分諦めているのか特に抵抗はない。それもそのはず、カイオスと初めて出会った8年前からこの様子なのだ。 カイオスからしたらかなり歳下のルゥをただ可愛がっているだけなのだが、レジにとってはその様子が気になって仕方がない。 「カイオス!もういいだろ!」 「お?もうちょいいいじゃん〜年寄りの楽しみ取るなよぉ〜!!それともレジも構って欲しいのかなぁ〜??」 「っ!やめろ!」 ルゥを取り上げられ初めは拗ねたような表情を見せたカイオスだが、次の瞬間には元のにやにや顔でレジの頭をわしゃわしゃと撫で回し始めた。20代のレジはカイオスからしたらルゥと大差無い可愛い子供でしかないのだ。 騒ぐ二人の元からしれっと抜け出したルゥはノエルの傍に避難する。歳下としてみんなから構われることは嫌な訳では無いが、それにはしゃぐ性格でもないのだ。 「・・・たまにでいい」 「あいつらは加減を知らないからな」 程々が一番である。

ともだちにシェアしよう!