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戦争を知る者

「っだ、大丈夫ですか!?」 「怪我は!?!?」 大人しくなった熊を檻の中に入れた所で、呆気に取られ身動きの取れていなかった旅芸団の団員達がルゥの元へと駆け寄ってくる。 「ん、問題ない」 その間にダグ達の方も落ち着いたようでルゥの元へ集まってきた。咄嗟のことであったが、特に怪我人もいないようである。 それも全て、ルゥ達が獣人の力を解放したことによるおかげだろう。流石に興奮した状態の熊や馬相手に素の力だけで立ち向かうことは難しかった。 しかし、 「あ、あんたら、その頭は・・・」 「耳と、尻尾まで・・・」 ただでさえ混乱した状況だった上に、熊を素手で抑え込んだ少年達。しかもその頭には獣の耳や尻尾があるという、まさに異常事態。芸団員達も周囲の観客達も目の前のその事実を理解出来ないでいた。 そんな中で一人の老人が恐る恐るといった様に近づいてきた。 「も、もしやあんたら、獣人かい?」 その言葉に周囲のもの達が一斉にざわめき出す。ルゥ達に近づいてきたその老人は見た目からして、きっと戦争を知る、獣人を見たことがある世代の人間であろうとルゥは予想した。 「・・・そうだ」 混乱が増すことは想像出来たが、この状態ではもう誤魔化す方が難しいと考えたルゥは老人の言葉を素直に肯定する。 折角ナラマが色々と計画をしてくれていたというのに、思わぬ形で獣人の存在を知られてしまったなという気持ちもあるが、この場を抑えるために他の手段は無かったので仕方ないだろう。 ルゥの言葉を聞いた老人は驚きに目を見開いた。しかし次の行動には逆にルゥ達が驚かされることになる。 「良かった・・・!生きておったのだな!!」 「!?!?」 老人はルゥの手を取り両手で強く握りしめると、目に涙を浮かべながらそう言った。その思いもよらぬ行動にルゥやレジ、ダグ達も困惑した顔になる。突然現れた獣人に対し恐れや戸惑いといった反応は想像していたが、まさか涙を浮べ再会を喜ぶような反応をされるとは思っていたなかったのだ。 「わしは70年前のあの戦いで、下っ端の兵士として戦場にいた・・・」 老人が言うには長く続いた戦争で多くの兵士を失っていた為、当時まだ10代だった彼も戦地へと駆り出されていたという。しかし訓練を受けた訳でもなかった彼は、敵と遭遇し死を覚悟した。しかしその場に現れた獣人達によって戦況は一変し彼や周囲のもの達は命が助かったと。 「しかしわしらの命を助けて貰ったというのに、戦いが終わった後、獣人達は姿を消した」 そしてその後、獣人達は滅びたとまで世間で噂されることになった。自分達を救った英雄達が姿を消したこと、滅びたと言われることを老人はずっと気にしていたという。 「しかしっ、生きておったのだな!獣人は滅びておらんのだな!!」 獣人ではない老人が獣人達のことをそこまで気にかけてくれていたことにルゥ達は驚いた。そして涙を流すその姿に、老人の、人間の温かみを見た気がした。 「ほらほらおじいちゃん、あんま泣くと干からびちゃうよ〜」 「カイオスがおじいちゃんとか、人の事言えないだろ」 「いいのいいの〜」 涙を流す老人の背をカイオスとマルコが優しく叩く。二人は戦争にも参加していたため、もしかするとこの老人の危機を救った獣人のうちに入っているのかもしれない。そしてこの老人の言葉をこの中の誰よりも素直に喜んでいるのも、話の当事者である二人かもしれない。 その後遅れて街に到着したランス達も騒ぎを聞きつけ広場にやってき、その場の収拾に一役買ってくれた。 「本当にありがとうございました!」 旅芸団には何度も礼を言われた。ルゥ達がいなれけば何人も怪我人が出ていたかもしれない騒ぎだったため、感謝してもし切れないだろう。 「あの熊のこと、叱らないでやって」 「あいつはどうやらまだ大人数には慣れてないみたいだぞ」 「少し気が小さいみたいだからな」 今は檻の中で大人しくしている熊のことをルゥ達はフォローする。怪我人こそ出なかったが、今回のような失敗があると今後の対応がどうなるのかが気になったからである。 それこそ熊の獣人であるダグやイルダには今回のことで落ち込んでいる熊の気持ちも何となく伝わっており、怯えていただけであることを知っているために不憫に思えた。 「はい、普段は大人しくてとてもいい子なんです。今後は小さな街からまた人前に慣らさせていこうと思います」 その言葉に安心したルゥ達はランス達が住民達の相手をしてくれているうちに城へと向かうことにした。イルダ達も予定とは異なるが状況が状況なだけに一度ルゥ達と共に城へ避難する。 まずはナラマに報告する必要があるだろう。

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