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告白の時
「悪い、まだ公表前なのに街で獣化して正体がバレた」
先程の状況を説明したルゥ達はまずナラマに謝罪した。色々と獣人達のために協力してくれているのに、その計画を狂わせてしまったことに対して。
「いや、謝られることなんて私はされていないよ。むしろ人々を怪我人を出さずに救ってくれたことに感謝するよ」
話を聞いたナラマはいつもの優しい微笑みで感謝を述べた。ルゥ達が獣化しないといけない状態となると、もしかすると怪我人どころか死者が出ていてもおかしくなかったかもしれない。
確かに計画とは違う形で獣人の存在を国民に知られることにはなったかもしれないが、それは責めることではないのだ。
しかしルゥ達の存在は驚くべきスピードでランドニアの街中に広まっていた。この後の対応は急いだ方が良いだろう。
「急だが、今から国民に獣人の存在を公表しようと思う」
「今から!?殿下、そんな急に、準備もしてないのに大丈夫なんですか、、?」
ナラマの言葉に一番に反応を示したのはレジであった。それはナラマが普段、何かを行う時に綿密に準備をする人間であることを知っているからである。予測出来る事態を全て考慮した上で策を練り、相手に隙を与えない事こそがナラマの得意とする戦略なのだ。
「事態が事態だからね。今は遅れをとって国民に不確かな情報が流れる方が良くない。それに、準備をしていないってわけでもないんだよ」
そう言ってナラマは微笑んだ。
それからの行動は素早かった。城にいる様々な人間に指示を出し獣人の存在を公表する為の場の準備を整える。ルゥ達もナラマの指示に従い、身なりを整えたり戻ってきたランス達と連絡を取り合う。
街には既に先程の広場での出来事が広まっていたこともあり、王から国民に向けて発表があるとの報せに国民達はすぐ様、王城の広間へと集まってきた。
普段であれば何かの式典や祝いの場でしか開かれることの無い城の門が開かれることに、国民達もどこか落ち着きのない様子である。
「さあ、行こうか」
ナラマに続きルゥとレジ、ダグの三人が国民の前へと進んだ。眼下には見渡す限りにランドールの国民達が集まっており、城内に入りきれなかったもの達も城の周囲に集まっている。
姿を現したナラマ達に向けて国民達の視線が一同に集まる。それをナラマはいつもの笑顔を携えた状態で静かに見渡す。そして、静か口を開いた。
「皆、急に集まって貰って悪いね。今日は私から皆にどうしても紹介したい者達がいるんだ。私達ランドールの民が、今こうして笑顔で暮らせている事実と彼らは切っても切れない存在・・・」
一度言葉を区切ったナラマは視線でルゥ達を呼び寄せる。静かにナラマの言葉に耳を傾けていた国民が、ルゥ達の姿を視界に捉えた瞬間ざわざわとざわめく。
「先程の広場でのことは既に皆も耳にしているようだね。そう、彼らは “獣人” だよ」
獣人というワードが出た瞬間に更に国民達のざわめきは大きくなる。
“あれが獣人・・・”
“素手で熊を相手にしていた”
“本当に獣人はいたのか”
“他にも仲間がいたぞ”
飛び抜けて耳の良いルゥには離れた位置にいる国民達の言葉もなんとか聞き取ることが出来る。その発された言葉と一緒に戸惑いや好奇心といった感情が含まれているのが伝わってくる。
「皆の戸惑いは十分に理解している。滅びたと言われていた彼らが急に姿を現したんだ、私も初めは驚いた。・・・しかし、同時に嬉しかった。彼らの存在があったからこそ今の私達がある。豊かな生活を送ることが出来ている」
ランドールが、世界が、今の姿になったのは戦争を戦い抜いた当時のもの達の成果でもあるが、やはり獣人達の存在が大きい。そんな獣人達が何故人々の前から姿を消したのか。どんな思いで暮らしていたのか。そして今、何を望んでいるのか。
ナラマは語りかけるように国民達へとその想いを話した。
「私達を救ってくれた彼らは、長年定住する地を持たず、心を許した仲間とも離れ離れの状態で生活をしていた。私はそんな彼らに住む地を、与えたい・・・いや、彼らの居場所を返したいと思う」
人間達の元から姿を消したのは獣人達の意思であったかもしれないが、そのきっかけを作ってしまったのは紛れもなく人間なのだ。戦争を起こし、先王の死のきっかけを作り、里を失うに至った。そんな獣人達の悲しみと引き換えに人間の生活があるのだと。
「今ここにいるのは、獣人達が長く求め続けた存在、獣人の王であり、そして私の友であるルーファス・バートレットだよ」
ナラマに紹介され、ずっと口を開くことなくナラマの隣に立っていたルゥは静かに一歩前へと出る。
ざわざわとしていたその場の空気が、ナラマからルゥへと瞬時に移る。その整い過ぎた見た目と珍しい真っ白の髪、そして距離があってもわかる赤く燃えるような瞳。その現実離れした存在に国民達は目を奪われ、そして自然と口を閉じ次に発されるだろうルゥの言葉を待った。
「・・・俺達獣人は人とは違う。力の強さも体の丈夫さも、寿命でさえも。獣の力を借りることも出来る。それは人間にとって恐怖の対象なのかもしれない」
いくらルゥ達が人間に対して好意を持っていても人間達が獣人に対してそうだとは限らない。それこそ理解し得ない力を持つ獣人に対して恐れを持つ方が簡単であろう。
「得体の知れない俺達を無条件に受け入れてくれるナラマはきっと、人間の中でも珍しいと思う」
「そんなことないよ」
「ナラマは変わってるさ。でも、とても良い王だ。俺は同じ王という名前は持っているけど、ナラマのようにみんなに何かを与えることが出来ない」
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