74 / 90

ほっと一息

「親父さん達も俺達の存在知っても変わらず歓迎してくれるってよ!」 発表の後、予定していた職場へと顔を出したイルダ達は笑顔で帰ってきた。街では広場での出来事を見ていた者も多く、知らない者から声を掛けられたようが、どれも悪い内容ではなかったらしい。 その事を聞いてルゥはホッとした。 人が多くいる分たくさんの意見はあるだろうと思っているが、やはり否定的な言葉は聞くと落ち込む。しかし今は歓迎ムードの方へと街の雰囲気は傾いてくれているようだ。 それはナラマやルゥの言葉を聞いたからでもあり、獣人というものに直接触れた者達だからというのが大きい。 そして問題はランドニア以外に住む人間達の反応がどうなるか、という所かもしれない。 「他の街にも話はすぐに伝わるだろう」 「ま、王様が俺ら側についてくれてんだ、表立って否定する奴はなかなかいないだろ」 「そうだな」 ノエル達が言うように国民に慕われているナラマが獣人を友だと言ってくれている手前、その存在を否定するもの達はあまりいないだろう。 本当にナラマには色々と助けられている。 問題になるとすれば、それはランドール以外の国の動向だろう。再び獣人が、しかもランドールに現れたことに対してどう出るか。しかし今はランドニアの人々が獣人を受け入れてくれた事に素直に喜ぶことにした。 「俺達はもう、居場所を手に入れたんだ。あとは俺達らしく自由に生きよう」 「だな!」 出来ることはやった。あとはもう獣人達が獣人達らしくしていればいい。求めることは共存ではあるが、人間に合わせることではないのだから。ありのままの獣人という存在が、そういう人種が、いると知ってもらえればそれでいい。 「そうとなったら明日からまた里の復活に向けて頑張らないとな!」 「そうそう!早く自分達の家でのんびり暮らしたいぜー!」 「俺はインテリアにも拘るからね。なんならルゥの家も俺がコーディネートしてあげよう!」 「ルゥ君、カイオスに任せると装飾品だらけになるから気をつけて」 盛り上がるイルダ達。ルゥとしては住みやすければ部屋の造りには特に拘りは無い。設計図を用意してくれている大工にも希望は広めのベッドスペースしか伝えていないくらいだ。 あとは出来れば大きな浴室が欲しいと思っていた。しかし、それは思いもよらぬところで叶うことになった。 なんと里のすぐ側に温泉が湧いていたのだ。ルゥが里の周辺を探索している際に発見した。一度に20人は軽く一緒に入ることができる程のそれを見つけた時はとても気分が上がった。 「ルゥ、今日はこのまま城に泊まるだろ」 「ん。明日の朝戻る」 里が完成するまではしばらくまだ城に部屋を用意してもらっている。昨日は宴会があった為里の方で眠ったが、やはり慣れてしまえばふかふかのベッドのある生活から抜け出すのは辛いものがある。つい最近まで野宿が当たり前だったというのに、贅沢に身体が慣れてしまったようだ。 「俺の中の野生がどんどん失われていく」 「いや、元々ルゥは野生味が少ないだろう」 「そんなことない」 「いーやあるね!寒さにも暑さにも弱いし、小さい時は知らない人間にもすぐついて行っていたぞ」 「小さい頃なんか知らない」 揶揄ってくるダグに対してムっとした表情をするルゥ。別に野生味が必要なのかは分からないが、ルゥにとっては重要なのか珍しく食い下がる。しかしそれにはきちんと理由があった。 「最近よく、虎じゃなくて猫だと言われる」 心外だ。そう不満を全面に出したルゥの言葉に、周囲にいた者達はつい吹き出した。確かに日向を探してはふらふらと歩き昼寝をする姿や、レジに撫でられゴロゴロと喉を鳴らす姿は虎というより猫のようである。そんなルゥの姿が可愛くての周囲の発言だが、どうやら本人はお気に召さなかったらしい。 しかしその不機嫌そうな顔すら可愛く見えてしまうのは、普段のルゥがかなり温厚でまったりとしているからだろう。野生味以前の問題として、ルゥは人に対しての敵意というものがない。警戒心は存在するが、何かがあっても勝てるという自信があるからか敵意を向けることがないのだ。 そのことがルゥを猛獣と言われる虎である印象を薄くさせる。 「俺は虎でも猫でもどっちにしろ可愛くて好きだぞ」 「・・・レジは狼より犬」 「確かにレジは犬だな!」 「ああ、レジナルドは犬だな」 フォローのつもりで言ったはずが、何故か犬犬と連呼されるレジ。その複雑な気持ちになんとなくルゥが猫と言われるのを嫌がる理由がわかった。 獣人としては一括りだが、やはり何の獣人かというところにはそれぞれのプライドのようなものが存在するのだろう。

ともだちにシェアしよう!