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癒し効果もありますか?

「この際、半獣化した状態で生活するというのはどうだろうか」 夕食後、定例となりつつある話し合いのためルゥ達は集まっていた。急遽ではあったとはいえ獣人の存在を公表し、まだランドニア内だけではあるが国民の同意も得ることが出来た。それは結果としては最高のものと言えるだろう。 そしてそこでナラマからのこの提案。 「半獣化?」 「そう!半獣化してる状態は通常より疲れたりするのかな?」 ナラマにそう問われるが、答えは否。特に疲れるということはない。 「むしろ楽」 「普段より元気になるよな」 「なんかこう、体力が有り余ってる感じ」 そう、半獣化している状態が疲れるということはない。むしろ本来の力が表に出てくるため体力も身体能力も様々なものが向上している状態。少しのエネルギーで過ごすことが出来るので効率的とも言える。 「それは素晴らしい!」 目をキラキラと輝かせて部屋にいる獣人達を見渡すナラマ。今日はルゥ達の他に普段は会うことの無いイルダ達もいるので、獣人ファンであるナラマのテンションは普段以上に高い。 「半獣化した状態であれば人と獣人の区別がわかりやすい。これから交流を深めていく私たちにとって、それはコミュニケーションのきっかけにもなると思うんだ」 確かに獣人達は互いの匂いで仲間と人間の区別が出来る。が、人間にはそれが出来ない。見た目の体格の良さで判断しろと言うのはなかなかに難易度高いが高いだろう。 それも半獣化して耳や尻尾が現れている状態であれば、瞬時に解決される。 「それに、獣耳はとても可愛くて癒されるよね」 「そっちが本音か」 「そんなことないよ」 やだなぁ〜何を言うんだいと否定するナラマだが顔がとてもにやけている。別にナラマが半獣化した姿の時にいつも目を輝かせていることも、ルゥが獣化した姿には更にテンションが上がることも知っているので今更隠すこともない。 何百年も前、まだ獣人が人から距離を置いていなかった時代は獣人達は半獣化した姿で生活していたという。それを人から距離をとるため姿を隠しやすく半獣化を止めた。それをまた逆に繰り返すというのは、不思議なことだ。 「俺はそれでいい」 しかしナラマの言うことに対して特に拒否する理由はない。ルゥは他の者達の意見はどうかと視線を周囲に向ける。 「俺達もいいぜ!」 「なんだかこの姿をキープするのは久々で解放感あるな」 「あはっダグもイルダも相変わらず可愛い尻尾だねぇ!」 「うるせ」 同意の言葉と共に早速半獣化してみせる。同じ種族とはいえそれぞれに受け継がれた獣の血の違いでその姿も様々で個性的だ。 種類は違うが同じネコ科であるルゥとカナタは耳はそこまで大きくなく、尻尾は短めの毛で長細い。狼の獣人のレジとカイオスは耳が大きく立ち上がっており、尻尾は毛が長く太く大きい。そして馬の獣人であるマルコは耳の毛は短いのに対して尻尾は長く美しい毛で覆われているし、熊の獣人であるダグとイルダは耳も尻尾も毛が硬く小さめで丸っとしている。 この場にいるもの達だけでもそれだけの違いがあるのだから面白い。 「季節の変わり目は抜け毛が大変なんだ。あと、尻尾に合わせて服に穴が必要だな」 「それは是非とも一度私にブラッシングをさせて欲しいな!服の仕立ても必要ならこちらで手配するよ!」 抜け毛が面倒だとこぼしたルゥに対してすかさずブラッシング係を自ら志願するナラマ。雑用とも言えなくもないそんな役目をやりたがる一国の王はなかなかいないだろうが、なかなかいないというだけで存在しないわけでは無いらしい。 目をキラキラとさせるナラマにルゥはとりあえず肯定の頷きをする。別にやってくれるというならそれはそれでいい。 そこでつんつんと肩をつつかれ振り返る。そこにはいつの間にか隣が定位置となっているレジがおり、振り返ったルゥの耳に手を添え小声でこう言った。 「俺も、ブラッシングしたい」 「・・・好きにしてくれ」 レジは元々世話好きの質ではあるが、ルゥに対してはそれが他への何十倍にもなる。朝は起こしてあげたいし、風呂に入れば体も髪も洗ってあげたい。勿論髪を拭くのもやりたいし、服を着せたいし脱がせたい。 そしてブラッシングとなれば、やりたいに決まっている。完獣化した状態を隅々までブラッシングしてふわふわにしたい。 「レジといると、俺そのうち自分じゃ何も出来なくなりそうだ」 「ん?どうしたルゥ」 「何でもない」 色々と世話を焼かれることは嫌ではない。が、最低限のことはきちんと自分でやろうとルゥは思った。

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