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屋根と壁があれば満足なのだが
「大分人数も増えたな」
ルゥ達が里を開拓し始めて半月程経った頃、離れた場所で暮らしていた獣人達もそのほとんどが集まり、気付けば約300人の獣人が里に集まっていた。
そして人数も増えたことで里の開拓スピードも上がり、半月前までは木々が生い茂っていたそこは、今では立派な家の立ち並ぶ里の姿が見えてきていた。
「ルゥの家もこれで完成だな」
レジ達が見上げるそれはつい先日完成したばかりのルゥの家。王の住まいとなれば獣人達の気合いの入り方は凄まじく、他よりも人数も時間も愛情もかけられて作られた。
「・・・やっぱり、でか過ぎないか」
「まぁ、ちと気合いが入り過ぎた感じはあるな」
明らかに周囲の家と比べサイズも外観への拘りも桁違いであろうその姿に、ルゥの顔は若干引き気味である。希望はこじんまりとした生活するのに最低限の広さがある家だった。しかし、あまり拘りの無かったルゥは設計からほとんど全てを丸投げした。すると結果としては里一番の豪邸を手に入れることになってしまったのだ。
普通に暮らす分には余りある部屋数に、一部屋の広さも家具を置いてもまだ広々としている。ナラマから新築の祝いとして贈られた家具はどれも品が良く高級な品であることは、そういったものに興味のないルゥでもわかった。
豪華過ぎるその家を見上げてこっそり溜息をもらす。
(ま、いっか)
周囲でにこにことこちらの様子を伺っている仲間達の顔を見ればこれ以上文句を言うのは躊躇われた。
「・・・狭いより良いかもしれない、うん」
「無理矢理納得しようとしてないか?」
「そんなことない」
ここ数日はランドニアからも職人や商人達が里に必要な物を運び入れる為に出入りしていた。ランス達が同時進行で進めてくれていた山道の整備とダグ達が作った橋のお陰で、移動は以前よりスムーズである。
基本的な生活は自給自足で行うつもりなので、里の端には畑が作られた。有難いことにアミナスの木の影響で作物の育ちは良い。
「これは一年を通して実をつける作物の種だ。色々な料理に使えて保存もきく」
「こっちは擦り傷や捻挫なんかの軽めの怪我に使える薬草の苗だ。ここには医者がいないんだってな、流石に万能薬ってわけにはいかないがないよりマシだろ」
獣人の存在を公表してから、ランドニアの人々はとても友好的かつ親切である。こうして里に必要だと思えるものをくれたり、この地域での生活に必要なことを教えてくれる。
「こんだけの人数がいるんだ、せめて薬剤師でもいてくれれば安心だろ」
「俺達なら街まで走ればそんなかからないし、贅沢は言わねぇよ」
「それに体だけは一際丈夫なわけだし」
そう、獣人達の中には多少知識のあるものはいても、薬剤師や医者といったものはいない。自分達で言うのもなんであるが、体を使うことは得意だが頭を使うのは好きではないのだ。
「ノエルが里で暮らせばいい」
「馬鹿言え。そこまでの面倒は見れん」
ノエルは里の完成を見届けたら一度谷にある家の様子を見に行くらしい。そのまま元の暮らしに戻ってしまうのかと思ったが、そういう訳では無い。その後はまたランドニアに戻り本格的に王宮薬剤師兼医師として迎え入れられるという。
長年谷で一人で暮らしていたノエルにとっても今回の旅は新たな生活を手に入れる大きなきっかけとなったようだ。
ルゥ達としては仲間として里に迎え入れたい気持ちが強かったが、ノエルが王宮での薬の研究を望んでいることもあり強くは誘えなかった。どちらにしろ頻繁にランドニアに足を運ぶことにはなるので、顔を合わす機会は多いだろう。
そのこともあり渋々といった形でノエルを里に迎えることを諦めた。何よりノエルが選んだ道に対して口を挟むことは出来ない。
「寂しくなったらいつでも歓迎するぜ」
「はっ、俺がそういう質じゃないことくらいわかっているだろう」
「まあな」
ダグの誘いに対してもきっぱりと断るノエル。別に里で暮らすことが嫌な訳では無い。むしろ気心の知れた者のいる里での暮らしも悪くは無いと思っている。
新たな生活を始めようとしている獣人達を見守りたい気持ちもある。しかしそれは内側からではなくてもいい。
ノエルはそれを王宮医師という立場で少し離れつつ、しかし近い場所で見守ることに決めたのだ。
(ま、ランドニアに残る時点で俺も子離れが出来ていないな)
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