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働く獣人

「おーい!こっちにも手を貸してくれ!」 屈強な男達が大きな岩を運ぶ。その指揮を取っていた親方は他の作業をしていた一際体格の良い男達に声をかけた。その頭には通常は無い獣の耳があり、腰の少し下には獣の尾がある。 「あいよー!」 元気な返事と共に親方が指し示す所へと応援に行く。先日あった大雨で崩れた土砂を運び出すのが男達の今日の仕事である。六人掛かりで一際大きな岩を運び出そうとしていたが、どうにも動かす事が難しそうだ。そこに先程呼ばれた男達が三人加わる。 正確に言うと、元いた六人は岩から離れ新たに来た三人が岩を囲んだ。 「よし、いくぞ」 「「おう!」」 「せーのっ!」 一人の掛け声に合わせて力を入れる。すると、先程まで六人掛かりでビクともしなかった岩がゴロゴロと周りの砂利を崩しながら持ち上がった。そのまま邪魔にならない所へと大岩を運ぶ。 ドスンっという大きな音とと共に再び地面へと置かれた岩はその重みで土にめり込む。 「ひーっ、やっぱ獣人の怪力はすげぇな」 「こりゃ俺達の役目が無くなっちまうぞ」 違ぇねぇなと顔を見合わせて笑う男達。確かに獣人の腕力は個人差はあるとはいえ、通常の人間の軽く5倍はあるだろう。 だからこそ少人数でもこういった力仕事の場では大活躍である。 「おら、お前ら笑ってねぇで仕事しろ!役に立たなきゃ本当にクビにするぞ!」 「やべっ」 「そりゃないぜ!!」 喝を入れるように親方の大声が飛び、男達は止まっていた手を急いで動かす。その様子を笑っていた獣人達も自分達に親方の目が向かないうちにそそくさと作業に戻っていった。いくら力で勝っているとはいえ、怒った親方はなかなかに迫力があるのだ。怒らせないに越したことはない。 そんな獣人達の考えは親方にはバレバレなのだが、あえてそこは気付かないふりをする。必要な時には怒りもするが、理不尽に怒鳴り散らす人間ではないのだ。 ランドニアの街に獣の耳や尻尾のある獣人達が見られるようになって半月程が過ぎた。初めはその姿に物珍しそうに視線を向けていた人々も、最近ではだいぶ落ち着いただろう。 「本当、獣人が来てから仕事の進みが早いよ」 「特に力仕事のある現場ではかなりの戦力だな」 「それは良かった」 様子を見回りに来ていたレジは街の人々の声に安堵した。どうやらナラマやルゥの期待通り、獣人とランドニアの人々は良い関係を築けているようだ。 「ま、ちょっと目を離すとすぐに日向ぼっこやら他のことに気を取られる奴がちらほらいるがな」 「・・・それは少し問題だな」 「いいさ。仕事の効率が上がってることには変わりないからな」 どうやら新しい環境に慣れてきたからか、元々の自由でマイペースな性格が顔を出してきたようだ。仕事に影響が出るようであれば何か対策を打たないといけないなと思いつつ、彼らのトップが一番のマイペースであるルゥであることを思うと仕方がないとも言える。 そしてそんなルゥも実はある仕事に就いていた。 「王様は今日も森かい?」 「ああ。今日はルコの谷の周辺を見に行っているらしい」 「あんな山奥をか。そりゃ大変だなぁ・・・」 「ルゥには特に苦じゃないさ」 ナラマからの依頼でルゥはランドールの植物の調査を行っていた。というのも、ランドールはその国土の広さから土地によって様々な植物が自生している。そういった植物の中には薬となる貴重なものや毒のある危険なものもある。今までもそういった植物を研究していたが、人間の足では踏み入ることが難しい場所も多々あった。 しかし、それも獣人となれば話は別である。深い森も断崖絶壁の谷底も野生の動物達の住処も、獣人にかかれば特に困難な場所ではない。 そして普段から植物に興味があり珍しい植物の見分けもつくルゥが、その調査団の一員となったのだ。王が調査団として働くという事に初め獣人達は戸惑ったが、ルゥが良い暇つぶしになると乗り気だったため誰も止めることは無かった。 調査は月に数回あり、今日は丁度その調査の日であった。レジは早朝に調査の為に調査団と共に出かけて行ったルゥの姿を思い出す。 (・・・朝が早かったからな、今頃昼寝でもしていそうだな) 普段よりも大分早い起床だったため、家を出発する時点ではまだ完全には目が開ききっていなかった。きっとそろそろ集中力も切れる時間帯だろう。心地良い日向を見つけうたた寝する姿が容易に想像出来る。 何より調査団にスカウトする条件に“昼寝休憩有り”というものをナラマから提示しているのだからおかしな話である。 (殿下はルゥに甘いからな) そう自分の養い親でもあるいつも笑顔を絶やさないナラマを思い浮かべるレジ。誰よりもルゥを甘やかしている自覚は本人にはないらしい。 疲れて帰ってくるだろうルゥに甘い物でも買っておいてやろうと考えつつ、レジは軍の訓練場へと向かう。元々騎士団長を務めていたレジは今は教官という立場で騎士団員の訓練をつけているのだ。

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