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異変
夕方、訓練を終え王城へと顔を出したレジ。ルゥが参加している調査団が帰ってくるのは三日後の予定。その為普段なら里で過ごすルゥの元へいち早く帰るところが、今日はその必要もない。
「今日は泊まっていくのか」
「そうするつもりだ。たまにはいいだろ」
横を歩くランスとくだらない話をしながら王城内を歩く。団員達の前では騎士団長として、上官としての立場もあるのであまり気を緩める事は無いが、今は二人だけ。元々兄弟のように育った間柄である為、二人になればその空気もまた砕けたものへと変化する。
「この前もエドがーー・・・なんだ、騒がしいな」
「ん?本当だな、何かあったみたいだな」
中庭を抜けた辺りで何やら小さな人集りが出来ており、その周囲にも慌ただしく走り回る者達がいる。何かがあったのは一目瞭然であり、その様子が気になったレジとランスも人集りの方へと足を向けた。
その長身を使い人集りの中心を覗き込んだレジは驚きにぎょっと目を見開いた。
「っルゥ!?どうしたんだお前、戻るのは明後日じゃ・・・」
「レジ!!ノエルはどこにいる!?」
「!?!?」
そこにいたのは明後日まで姿を見ることがないはずであるルゥであった。しかも、耳と尻尾だけを出した半獣化した姿ではなく、ルゥだけに許された姿、完全に獣化した白虎の姿で。
普段よりも若干低い声は初めて聞くような焦りを含んでおり、その様子にただ事ではないことをレジは瞬時に察知した。
「何があった!?」
「レジ、急がないと・・・」
「ギャンギャンと騒がしいぞ」
「「!!」」
ルゥの元へ駆け寄り状況を確認しようとしたレジ。そこへ騒ぎを聞きつけてか人集りを割くように現れたノエルに、ルゥはレジへの言葉を一度止めノエルの方へと駆け寄った。
「ノエル、急いで医者と薬剤師を集めて」
「・・・何があった」
早朝に出発した調査団は予定通りルコの谷を目指して森を進んでいた。ルコの谷へは馬を走らせて約半日かかる。いくつか途中にある街を素通りし目的地へと急いでいたルゥ達だが、谷の手前にある小さな村の傍を通りかかった時、その異変に気が付いた。
小さな村とはいえ建ち並んだ家の数からそれなりに住人がいるように思えた。しかし、辺りには人の姿が全く無かったのだ。時刻は昼を少し過ぎた時間。全ての村人が家の中で昼食をとっている、ということはないだろうと不思議に思ったルゥ達は村へと足を踏み入れた。
「・・・どこかへ出かけているのか?」
調査団の隊長であるコノハが辺りを見渡しながら呟いた。それ程に人の気配がしなかったのだ。それどころか村はどこか荒れた雰囲気で、隣接する畑もここ最近手入れをされた様子がない。
「違う。家の中には人の気配がある」
静まり返っており人がいないように思えるが、ルゥにはどの家にも人がいることがわかった。しかしそれにしてもおかしい。人の気配はあるが、そのどれもが息を潜めている、と言うよりも気配が弱々しい。
「!!」
「っ、ルゥ!?どうしたんだ!??」
そこでハッとしたルゥは一番手前にある民家に飛び込んで行った。家の扉には鍵がかかっていなかったようで、隊員達はルゥが飛び込んで行った先へ恐る恐ると足を踏み入れた。
「これは・・・」
ルゥがいたのは寝室のようで、寝具が二つ並んでいる。そしてそのどちらにも人が横たわっていた。しかしその様子がおかしい。食後の昼寝をしているといった和やかな空気は一切なく、その顔は頬が痩け、目の周りには茶色い痣のようなものが浮かび上がっている。
「コノハ、他の家も確認して、早く」
「わかったっ」
隊員達は手分けして村の家を回っていった。どうやらこの村では家の扉に鍵をかける習慣がないのか、家に入ることは容易ですぐに全ての家を回ることが出来た。
「おかしいっどの家の住人もみんな寝込んでいるぞっ」
無人に思える程静かであるのは、村人全てが床に伏しているという異常事態のせいであったのだ。
「もしかして、伝染病?」
「いや違う。これは・・・」
ただ体調が悪く寝込んでいるというにはその人数がおかしい。村人全員。そしてその誰もが同じ症状のように見えた。それは目の周りに茶色い痣が浮き上がっているということ。
そしてそれがどういう時に出る症状であるのか、ルゥ達にはすぐに一つの結果に導かれた。
「これは、毒による中毒だ・・・」
それは彼等が普段調査をしている、植物による中毒症状であると。
植物の中には毒を持つものがある。間違って摂取すれば大変なことになるが、使い方によっては薬にもなる。そんなものが多様に存在する。
調査団の調査対象は未発見の植物や生態の調査でもあるが、そういった植物の採取や研究もその仕事の一つであった。
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