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ルルカタ
「今コノハ達が手持ちの薬草で薬を調合しているけど全然足りない」
急いで隊員達が持ち歩いていた薬草で解毒剤を調合し始めたが、とてもじゃないが村人全員分には足りない。そして6人という調査団の少ない人数で村人約50人の看病をするというのも難しい。
そこで誰よりも早く移動の出来るルゥが獣化して助けを呼びに来たのだ。途中の見知らぬ街で医者を探すよりも、確実に居場所がわかり、尚且つ薬の知識も薬の在庫も確保してある王都へと真っ直ぐ走った。
「俺はルーファスと先に行く。準備が出来次第すぐに向かってくれ」
話を聞いたノエルは薬剤師達に指示をし、自らも必要な薬を持ってすぐにルゥと共に王城を出発した。村まではルゥの足で一時間程。後から追いかけてくる薬剤師達はランスが用意した軍の早馬で向かう予定だが、数時間はかかるだろう。
ルゥとノエルは村に着いてすぐにコノハ達と合流した。
「症状は」
「熱は無い。酷い倦怠感で体に力が入らないらしくほとんどの者が栄養失調状態だ」
ルゥが王都に向かっている間に調査団の者で出来る限りの現状を把握する為に村中を駆け回っていた。症状が酷い者は会話も難しく、どうにか話せる者でも動くことは出来なかった。
ノエルは案内されるがままに症状が酷いとされる村人のいる家へとまずは向かった。
「なんだこの痣は」
「村人全員にあった」
「全員に?」
獣化を解いたルゥが服を着ながらノエルに説明する。ノエルは脈を測ったり触診したりと診察をしていく。どうやら頬に浮き出た茶色い痣が気になるようだ。
ひとまずノエルが持ってきた薬を症状に合わせ調合していく。そして遅れてやって来た医者と薬剤師達も加わり村人達に手分けして薬を飲ませた。
全員の処置が終わる頃には日は沈み辺りは暗くなっていた。流石医者としての経験も豊富なノエルの薬は効きが良く、比較的症状の軽かった村人は起き上がって食事をとれる状態まで回復していた。といっても、まともな食事は久々なのでコノハ達が作った薬膳粥である。
「症状はいつ頃出始めたんだ?」
「それがーーー・・・」
会話が出来るように回復した為、改めて村がこのような状態に陥った時の様子を聞いた。どうやら初まりは半月前、急に体調不良を訴える者が出始めたらしい。しかし体調不良と言っても、体が重い、疲れが取れない、といった軽めの症状がほとんどであった。その為、季節の変わり目という事もあり皆そこまで気にしてはいなかったという。
ところが日にちが経つにつれ体調は悪化していき、徐々に体が思うように動かない。起き上がる事も辛くなり食事もまともに出来なくなった。漸くこれはおかしいぞと気づいた時には村のほとんどの者に症状が出ており、近隣の街へ助けを求める事も出来なかったという。
話を聞き考え込むノエル達医者と薬剤師達。持ちうる知識を引っ張り出し原因究明に務めた。
「感染症の可能性は?」
「発熱が無いのならやはり毒では・・・」
「感染の広がり方も気になりますね」
「食中毒は考えられないか?」
それぞれが考えられる可能性を次々に出していく中、ノエルは頭の中にある記憶を懸命に漁っていた。そして、一つの結果に行き着いた。
「ルルカタの毒だ」
ルルカタとは白い大きな花弁が特徴の植物である。比較的暖かい地域に咲いていることが多いが寒さにも強く、様々な地域で見られるルルカタには根に毒がある。
「ルルカタには確かに毒性があるが、こんな動けなくなるほどの効果は無いはずでは・・・」
ノエルの言葉にコノハは戸惑い気味に返事をする。コノハだけでは無く植物への知識がある他の調査団員や薬剤師達も皆戸惑った様子である。
この中で誰よりも広い知識があるノエルの言葉には信頼を寄せているが、ルルカタの毒には軽い麻痺の効果くらいしかないことはこの場の全員が知っていた。痛み止めとして打撲などの患部に湿布薬として使われることもあるが、その際にも他の薬と混ぜないとあまり効果が無いほどだ。
「通常はな。しかしルルカタにはある特定の条件下で通常の数十倍もの毒を持つ個体が育つことがある」
「数十倍!?」
数十倍という言葉を聞きその場に居たもの達から驚きの声が上がる。毒とは上手く使えば薬にもなるが、強ければ強い程、言葉の通り毒として人体に影響が出る。いくら元が弱いとはいえ、数十倍ともなるとその効果は全くの別物だろう。
しかしルルカタにそんな個体がある事など、植物や薬の専門家であるコノハ達や薬剤師達の誰一人として知られていなかった。
「普通は知られていないだろうよ。俺だってその個体に出会ったのは100年以上生きていて初めてだ」
ノエルが以前、100年近く前に読んだ文献の中にこのルルカタの変異種について書いたものがあった。しかもその文献自体もかなり古いものだったらしく、現在にはもう残っていないだろうとノエルはいう。
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