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舞踏会
「舞踏会?」
獣人の里が完成してから一ヶ月程が過ぎ、寒かった冬から徐々に暖かい陽射しが出始めた。恒例となっている定期報告の為にランドニアの王城へとルゥはやってきていた。
「そう。毎年春先に各国の王や貴族が集まって交流の場を設けていてね。今年はランドールが開催国なんだ。あ、ルゥ君このタルト美味しいよ」
相変わらずにこにこと優しい笑顔を携えたナラマが、運ばれてきたお茶を飲みながらルゥにおやつのタルトをすすめる。数種類のベリーの乗ったタルトはほんのり甘酸っぱく中のクリームとの相性も抜群であった。ナラマや隣にいるレジとノエルよりも、ふたまわりは大きなサイズのタルトへとかぶりつきながらルゥはナラマに話の続きを促す。
「各諸国へ文書で通達はしてるけど、やはりルゥ君達のことを直接紹介しておきたくてね。是非参加して欲しいんだ」
「ん、わかった」
確かに獣人達の存在は文書だけで済ませれるものでも無いだろう。既に獣人の噂を聞いた他国の者が多くランドールを訪れてはいるが、他国の王がふらっと獣人を見に来るということは難しい。
「当日は美味しい料理もたくさん用意するんだよ。ルゥ君はすこーし知らないおじさん達に挨拶して、あとはゆっくり食事をしていてくれて構わないからね」
「いやいや殿下、そう気楽にはしていられないだろ。舞踏会には俺も何度か出席したが、あれはそんな悠長にしてられるもんじゃないぞ」
にこにこのナラマに対してレジが過去の舞踏会を思い出しているのか苦い顔をする。以前は王国騎士団の団長という立場にいたレジは舞踏会にも勿論顔を出す機会があった。
舞踏会とは王族や貴族達の社交の場であり政治の場でもある。他者とのマウントの取り合いや人脈戦線、媚の売り合いは当たり前。少しでも自分達の利益になることへと躍起になったもの達が多くいる。
「ああ、レジナルドは他国のお嬢さん方からの求婚が凄かったね」
「殿下!!」
どうやら王国騎士団団長という肩書きは勿論、見た目も良く明朗快活なレジは各国の女性陣から人気だったようだ。息子同然のレジのその様子はナラマからしたら微笑ましい光景だったようだが、レジには苦い思い出のようである。
「ほぅ、レジナルドがそんなに女性から支持されていたとはな」
その姿を想像しにやけ顔でノエルが揶揄う。そしてその隣にいるルゥまでもへぇ〜といったように顔をまじまじと見つめてくるものだからレジはたまったもんじゃない。
「そんなこともあったかもしれないが、あれはみんなが想像するようなもんじゃないぞ!!」
ご令嬢からのアピールに良い顔すれば他のご令嬢から睨まれ、かといってきっぱりと断ればその親達に睨まれる。好いた相手がいれば話は早いがそのような相手もいなければ、だからといって誰かととりあえずお付き合いを、というのもレジの性格上出来ず。
舞踏会のたびにどうその場を切り抜けるかという事で数日前から頭がいっぱいになるほどであった。
そして他にも厄介なのが、友好的なものとは別にレジに近づこうとする者。それは王国騎士団団長という立場を利用したい者達のことである。国王との距離も近く、発言力も影響力もあるレジと繋がりその甘い蜜を吸いたい者は国内にも国外にもいる。
そして次の舞踏会では間違いなくルゥはその標的となるだろう。
「ただでさえ皆の興味を惹きつける獣人のしかも王だぞ!?おまけに顔も良ければ性格も心優しく可愛い、それでいて未成年で独身!!俺なんかの比じゃないくらい老若男女問わず人が群がるぞ!?!?」
多少レジの色眼鏡による部分もあるが大方その見立てに間違いはないだろう。ただでさえ注目度の高い獣人のトップに君臨する王。絹のようにキメ細かな白い肌に素晴らしい程に均等のとれた顔と美しく引き締まった体は、ご令嬢達どころでは無く多くの者を惹きつけるだろう。
そして初見の者はルゥが未成年というだけで容易に取り込めると勘違いする可能性も高い。実際は子供だからと侮ると痛い目を見ること間違いない。そして何よりルゥを利用しようなんて考えを持とうものなら総勢約300人の獣人を敵に回すことになる。
「まあまあレジナルドの言いたいこともわかるが、やはり各国への顔見せはいつかは必要なことだからね。当日はお前がルゥ君を助けてあげなさい」
「勿論だ」
ナラマに言われるまでもなくレジは当日はルゥのサポートに奮闘するだろう。
そして盛り上がるレジとは対照的に自分のことを話されているというのにルゥは相も変わらずマイペースにおやつタイムを楽しんでいた。
「俺は美味い料理が食えればそれでいい」
「俺も酒が美味ければ他に興味ないな」
ルゥとノエルは各国が集まるということでどんな料理や酒が出るのかということの方が気になるようだ。
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