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始まりの音楽

「着心地はどうかな?」 純白の布に装飾は銀色で統一され、足元は膝下までのブーツ。ボタンやベルトのバックルに至るまで様々な部分に細かな模様があしらわれている。胸元は下品にならない程度に軽く肌蹴たデザインで、唯一身につけているアクセサリーであるネックレスにの宝石が赤く輝いている。 「生地も柔らかくて動きやすい・・・が、このジャラジャラした装飾は無くてもよかった」 「はははっダメだよルゥ君。こういう社交の場では王様は偉そうに着飾らなきゃいけないんだよ」 それでも控え目にした方だと言う。確かに目の前のナラマはルゥの物よりも更に沢山の装飾がされており、全身が動く度にゆらゆらと揺れている。 「他のみんなも準備が出来たようだね」 ナラマの言葉に後ろを振り向けば扉からそれぞれ支度の終わったダグ達が入ってきた。ダグやレジ、イルダとカナタ達男性陣はルゥと似たデザインの服に身を包んでいる。それぞれカラーは獣化した際の耳や尻尾に合わせた色合いになっており、皆どこかしらにポイントとしてルゥと同じ赤が合わせられている。そして獣人サイド唯一の女性であるファーネスは、全身をボルドーのドレスに身を包み纏め上げられた髪には真っ赤な花の飾りがつけられている。 「あら、みんな素敵じゃない。馬子にも衣装ってやつね」 「一言多いぞ!」 「何だかこうカチっとした格好は慣れねぇな」 「鏡で見ても自分じゃないみたいで驚いたぜ~」 やってきた舞踏会当日。勝手の分からないルゥ達獣人の為にナラマが衣装から髪のセットまで全てを手配してくれた。 皆普段と違う姿に慣れないのかそわそわと落ち着かない。そんな中で少し前まで騎士団長を務めていたレジは一人慣れた様子である。 「レジは落ち着いているな」 「まあな。舞踏会に参加したのも一度や二度でもないし、出席する顔ぶれも大体面識があるからな」 なんとも頼りになる。しかし、緊張した様子はないが逆に綺麗に着飾った姿で、今にも窓から屋根に飛び移って昼寝でもし始めそうなルゥのサポートは大変だろう。堅苦しく振る舞えとは言わないが、マイペース過ぎるのも考えようである。 「さぁ、私達も会場に行こうか」 ナラマについてルゥ達は会場となっている大広間へと向かう。 ランドールを入れた十の国、その王族や貴族が今この場所に集まっている。大広間の扉を開けて入ってきたナラマ、そして後ろに続くルゥ達へと一同の視線が向けられた。その視線は様子を伺っているようでもあり警戒しているようでもある。 小声で周囲の者達と何かを話したり目で合図をし合ったりと、周囲はザワついている。 「どうだ、ルゥ」 「俺達を警戒してるのが半分、興味本位な感じが半分」 小声であってもルゥの耳にはその会話がしっかりと届いている。普通の声の大きさであればレジ達にもある程度の距離まで聞き取ることが出来るが、ルゥ程の範囲を聞き取ることは難しい。そのルゥが聞き取った感じでは、獣人という未知の存在に皆こちらを探っているような様子である。 「世界を治めし九の王達、そしてその家族達よ、まずは今日この日にまた皆で集まることが出来た事に感謝する」 ナラマはいつものニコニコとした笑顔と共に周囲を見渡す。そしてそれぞれの国の王達を一人づつ視界にとらえては頷く。 「さて、いつもならここで軽くジョークを交えた挨拶に移る所だけど、きっとここに居る彼らのことが気になって私の話に笑ってくれる者がいなさそうだから省略させてもらおう」 その通り、皆の視線はナラマを見ているようでその背後にいるルゥ達に注がれている。ナラマが言う様にこのまま挨拶を続けても、獣人達の存在が気になって話の内容は聞き流されてしまうだろう。 そうなる事は初めから予想していた為、早々と話を切り上げたナラマはルゥ達を隣に並ぶように合図する。 「文書では既に公表していると思うが改めて、彼らは獣人の王であるルーファス・バートレット王と獣人を代表して今回の舞踏会に参加してくれている皆さんだ。彼らは今ランドールの国内に暮らしているが、ランドール国民ではなく彼ら自身のコミュニティとして生活している。今日は私の来賓として招待させて貰った」 そう、ルゥ達獣人はランドールの国内に位置する場所に里を構えたがランドールの民になった訳では無い。ナラマから国土の一部を譲り受けた独立国家と言ってもいいだろう。あくまで獣人はランドールに取り入れられた訳ではなく、他の国々と同じ同盟関係であるということが大切なのだ。 「彼らは今日が舞踏会デビューだ。皆、彼らのことが気になるとは思うけどお手柔らかに頼むよ」 通常よりも短く終わらされた挨拶が終わると同時に広間にはオーケストラによる軽快な音楽が響き渡る。あえてこの場でルゥからの挨拶はない。獣人を知りたいのであれば自ら話しかければいい、今日は折角の舞踏会なのだから。事前に何か自己紹介的なものをした方がいいのか聞いた際、ナラマは笑いながらそう言った。そして、 “勝手なイメージで獣人を恐れて自ら話しかけれないような人間に君達の魅力を教える必要はないよ“ と。ランドール以外の国では獣人は人を襲い食べるなんて話を信じている人間もいるという。全くもって獣人側からすると根も葉もない噂に過ぎないのだが。 「さあさあ、ルゥ君達は自由に食事でも楽しんで」 「ん」 さて、最初に声をかけてくるのは一体誰だろうか。

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