85 / 90

コーライア

「相変わらず城の料理は美味いなあ!」 「本当、美味しいわね!あとでレシピ聞いてみようかしら」 「酒もいい酒ばかりだな」 「どれから食べるか迷っちゃうなぁ~!」 ナラマに言われた通り食事を楽しむことにした獣人達はその美味しい料理の数々にテンションが上がっていた。 「お前達はいくら着飾っても食い気が一番にくるんだな」 会場で合流したノエルが呆れた顔で料理に盛り上がっている獣人たちを見る。ちなみにノエルは自身が龍人であることはナラマと王宮の人間にしか知らせておらず、今回も正体を明かすつもりは無い。その為新しく入った王宮医師という立場で参加している。しかし元々の目立つ見た目とルゥ達と共に行動していることで同じく会場内の注目を集めていた。 「ルゥ、あっちにお前の好きな牛肉の煮込み料理があったぞ。取ってこようか?」 「俺も行く」 いつも通りルゥの世話を甲斐甲斐しく焼くレジはルゥの好物も把握済み。通常なら王自らが料理を取りに行くことはほとんどないのだが、ルゥはそんなことは気にしない。むしろ食べたい料理を自分で選ぶのが楽しいようで、頭の上の耳が機嫌良さげにぴるぴると動いている。 そんなルゥ達を周囲の人間達は少し距離を空けて様子を伺っている。獣人が気にはなるが、なかなか声をかける勇気が出ないようである。 そんな中、距離を置いている周囲の様子など気にも止めずにまっすぐルゥ達の元へ歩いてくる者がいた。 「お、てっきり囲まれてるかと思ったら誰もいないじゃないか」 肩につく長さのプラチナブロンドの髪に青い瞳をした長身の男。その身なりと、後を着いてくる従者の存在から地位の高い者であることが伺えた。 「ルゥ、コーライアの王だ」 「・・・」 レジに耳打ちされルゥはその男をまじまじと見る。ナラマとはまた違った自信の表れのような笑みを浮かべたその男はルゥの目の前まで来ると、すっと手を差し伸べてきた。 「会えて嬉しい。私はエリック・コーライア、コーライア王国の王だ。貴殿に会えるのを楽しみにしていた」 「ルーファス・バートレット」 ルゥは差し出された手を握る。コーライア王国の王。周りを和やかな雰囲気にさせるナラマとは真逆につい背筋を伸ばしたくなるような凛とした声と表情。未だまっすぐとルゥの目を捉えて逸らさないその青い瞳をルゥもまっすぐに見つめ返す。 すると力の篭っていた瞳からフッと力が抜けた。 「ふぅ~やめやめ、堅苦しい喋り方は俺は苦手なんだ。悪いが普段通り喋らせてもらうぜ。獣人の王様はそういうの気にするか?」 「いや、俺もその方がいい」 「いいね、話がわかるぜ」 急にガラッと変わった雰囲気と口調にダグ達は驚いていたが、ルゥとレジは特に驚いた様子はない。 「驚かないんだな。それとも表情に出てないだけか?」 「こちらに向かってくる間は今の口調だっただろ」 「聞こえてたのか!すごいな獣人の聴覚は!」 今度はエリックの方が驚かされる。確かにルゥに声をかけるまでは従者達といつも通りに会話をしていた。しかしそれは10m以上離れた場所でのことであり、まさかそれがルゥに聞こえていたとは予想もしていなかった。 「それにレジナルド、まさか王国騎士団長が獣人だったとはな!」 「お久しぶりですエリック国王。俺もつい最近わかった事実で驚きましたよ」 レジとエリックは面識がある。その為レジも特にエリックの雰囲気の変化に驚くことはなかったのだ。 「それにしても・・・」 「!」 バシッ 「殿下!!」 変わらずルゥの姿をまじまじと見ていたエリックが不意にルゥに向けて手を伸ばした。正確に言うとルゥの頭上の耳に向けて伸ばそうとした手は、斜め後ろにいたダグによって阻止された。そして急にエリックの腕をダグが掴んだことに、周りの従者や距離を開けてこちらの様子を伺っていた周囲の者がザワつく。 「悪いな王様、獣人の耳を許可なく触るのはやめといた方がいい。しかもそれをルゥ相手にってのは余計に良くねぇなぁ」 そう、獣人の耳や尻尾に許可なく触れることは獣人達にとってはタブーなのだ。というのも獣人達にとって耳や尻尾はとても敏感な部分でもあるからだ。元々今までは半獣化した姿になること自体が少なかったので、そのような機会は滅多になかったのだが。 「ダグ」 ルゥに言われダグはすぐに手を離す。 「おっと、それは悪かった。いや、獣人相手でなくとも許可なく触るのはいけないな。すまない」 「いい」 ルゥとしてはダグが止めなくても避けることなど簡単であった。しかしあえて避けようとしていなかった。それはエリックがどういった人間かまだ分からない為、何をしようとするのか気になったからだ。 「いや、本当にすまない。丁度目の前でぴくぴく動くもんだから気になってしまって」 確かにルゥよりも若干背の高いエリックからすると耳が丁度目の前に来る。 「あと、そんな警戒しないでくれ。俺は獣人に対して恐れも憎しみも持っていない」 「・・・らしいな」 恐れている相手の耳を興味本位で触ろうとはしないだろう。その声にも嘘が無いことから実は静かにエリックの動向を伺っていたイルダ達も警戒を解く。初めてのランドール以外の国との獣人としての対面に、ダグ達は少なからず周囲を警戒していたのだ。いざという時に決して力で負ける事はないが、王を第一に考える獣人達の本能として敵となりうる相手を警戒してしまうのは仕方がないだろう。

ともだちにシェアしよう!