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新たな時代の先導者達

「俺は戦争を知らない世代だからってのもあるだろうが、元々自分の目で見たものしか信じない質なんだ。いくら周りが獣人を恐れていてもその獣人を見たことがないのに恐れるなんて無理だろう?」 そう言って肩をすくめて見せるエリック。子供の頃に悪さをした時に“獣人に食われるぞ”なんてことを言われたことも確かにあるが、獣人がどんな姿をしているかも見たことがないのに想像で怯えるなんてことはなかった。 戦争についてもそうだ。直接獣人と戦った者はほとんど生きてはいない。皆周囲から見聞きした内容を語り継がれて知っているのみ。 突如ランドール側に現れて次々と軍を全滅させていった恐ろしく強い存在。手も足も出ないままに皆命を奪われた。 そうまるで獣人達による自分達を被害者のように語られる当時の様子。実際に命を落とした者達がいるので、被害者といえば違いは無いのかもしれないが、そんな彼らも戦争では多くの命を奪っている。 「戦争は敵も味方も大勢が死ぬ。始めた時点で多くの犠牲が出ることはわかりきっているんだ。むしろ長く続き過ぎた戦いを終わらせた獣人の存在のおかげで今の俺達の命が繋がっているのかもしれない」 エリックの言葉にルゥ達は驚いた。まさか獣人のおかげで今の自分達がいると、ランドール以外の国の者から言われるとは思っていなかったのだ。しかもそれを国のトップである王が言うとは。 「変わっているな」 「そうか?まあ確かに古い世代は間違っても獣人のおかげなんて言わないだろうが、今の代の王は割りと柔軟な考えの奴が多いぜ?」 エリックが言うように本当に他の国の王も同じような考えであるなら、ルゥとしても気持ちが楽になる。 かつての戦争が無かったことにはならないが、時代と共にそれぞれの立場と考えが出来上がってきているのだろう。 「我々も会話に混ぜてくれないか」 「流石エリック殿下、一番乗りとは行動が早い」 先程エリックが現れた時のように家臣を連れたもの達が二組現れた。 一組は短い黒髪に真面目そうな顔をした、歳はナラマと同じくらいだろうか。キリっとした切れ長の目が印象的な男である。 そしてもう一組は燃えるような赤い髪に浅黒い肌が特徴的ながっしりとした男。ダグやイルダと比べてしまうとそこまででは無いが、熊のような雰囲気がある。 「俺が早いんじゃなくてお二人が遅いんじゃないか?」 「そんなこともないだろう・・・と、言いたいところだが」 「二人してサバスの殿下に捕まってしまってなぁ」 「あ~そりゃあのじいさまは話が長いからな」 どうやら二人はエリックと知り合いらしく、会話の様子からもそれなりに気心の知れた仲であるように見えた。 コーライアの国王であるエリックとそのような関係であるということは、かなり身分が高い人間であることは予想出来る。それこそエリックと同じくらいの身分であると。 だが、世情に疎いルゥ達獣人やノエルには目の前の人物が誰なのかわからない。唯一わかるであろうレジに視線が集中する。が、レジが答えるより先にルゥ達の様子に気が付いたエリックによって彼らの正体がわかった。 「おっと、紹介もせずに悪いな。このお二人はクレバトスとカルディアの国王だ」 なるほど。予想はしていたがやはり目の前の二人は王であった。 黒髪の男がレナード・クレバトス、赤髪の男がテオドール・カルディアというらしい。ルゥは先程エリックとしたように自身の名前を言い握手をする。 「ランドールから獣人についての文書が届いてからずっと気になっていたんだ。今日会うことが出来て嬉しい」 「ナラマ殿下に詳しく聞こうにも、会えばわかるの一点張りで何も教えて頂けなかったからな」 先程エリックが言っていたように、獣人に対してのその友好的な態度にルゥ達は再び驚いていた。 今まで旅を続けていた中で滅びたとされている獣人が話題に出ることはあまり無かった。たまに耳に入る獣人の力を恐れる言葉に、勝手に自分たちは人間に恐れられていると思い込んでいたのだろうか。・・・いや、実際に今、周囲でこちらを窺うように見ているもの達の様子から、完全に思い込みというわけではないだろう。 人は知らないことに恐怖を覚える。獣人という謎に満ちた存在を恐れるのは仕方がないことだ。 しかしそのような感情が目の前にいる王達からは感じられないのだ。 「俺たちは今日、大戦での恐怖や恨みをぶつけられる覚悟でこの場に来ていたんだが・・・」 そういうことになる可能性をルゥ達は考えていた。しかしそのルゥの言葉に対してレナードとテオドールは逆に驚いたような顔をする。 「何故そんな覚悟がいる?戦争はいつの時代も始めるのは我々人間だ。獣人は力を持っているが為に巻き込まれただけだろう」 「君たちが意味もなく殺戮を好むというなら恐れるかもしれないが、そんな話は今も昔も聞いた事がない」

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