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祝福のワルツを共に

「な、今の代の王は話がわかるだろ?」 「そうらしい」 あまりに予想と違う反応を返され驚いた顔をするルゥ達を可笑しそうに笑いながらエリックが言う。そしてそれに釣られるようにルゥ達も自然と笑顔になっていた。 「どうやら大戦の事を過剰に意識していたのは俺たち獣人かもしれねぇな。時間と共に人間達は新しい時代を進んでいるのに」 ダグが言うように人々は確実に新しい段階へと進んでいっているようだ。だが世代が入れ替わっている人間達とは違い、獣人の大半は戦争の時代を生きたもの達だ。当時を生き戦った当事者である為、人間達よりも強く記憶に刻まれていても仕方がない。 しかしこれからは獣人達も前へ進んでいく。当時を忘れる訳ではないが、新たなルゥという王の元で新しい時代が始まった。 「改めて、俺達獣人を一つの種族として、一つの国として受け入れてほしい」 この舞踏会での一番の目的は獣人の存在を他国に認知してもらうことである。国というには規模は小さいかもしれないが、獣人達にとって里は立派な自分達の国だ。 「民がいて王がいる、それは立派な国だ」 レナードがルゥとその後ろにいるレジ達を一人一人見ながらしっかりと頷く。 「我々が目指す世界は国や人種に関係なく、平和な世界だよ」 圧のある見た目に反して柔らかい喋りのテオドールが笑顔を向ける。 「俺より若い王が現れるとはな。何か困ったことがあれば頼ってくれていいぞ」 エリックが再び差し出してきた手をルゥはしっかりと握り返した。 その光景を見ていたレジ達獣人とノエルは互いに目を合わせ喜びにガッツポーズをした。ランドール以外の国と獣人達が分かり合えた瞬間である。 それらのやり取りを少し離れた位置で見守っていた周囲の人々から控えめに、徐々に大きく拍手が広がった。 「なんでぇ、近付いては来ないのにしっかり聞き耳は立ててたってか」 「まあまあいいじゃない。みんなルゥに見惚れて動けなかったのよ」 「そりゃ違いない!俺らの王様は稀に見ぬ美丈夫だからな!」 「ルゥ最高だぜー!!」 緊張感の抜けたダグ達がいつものようなテンションで騒ぎ始める。それをルゥは特に気にした風もなく眺めているが、レジは慌てて止めにかかった。 「おいっ!今日は里での宴とは違うんだ!あまりはしゃがないでくれよ!」 「まあいいじゃねぇかレジナルド。ナラマも楽しそうに笑ってるぞ」 「っ殿下!!」 ノエルが指さす先では来賓に囲まれたナラマがこちらを見て笑顔で手を振っているのが見えた。それに手を振り返しているルゥといい、周りの呑気さにレジは慌てるのも馬鹿らしく思えてきた。 その自由な振る舞いこそが獣人の良さなのである。 「話したいことは沢山あるが、今日は舞踏会だ。折角だから踊ってきたらどうだ?」 「そうだね、おじさんと話してるよりも若者はダンスをしている方が楽しいだろう」 広間の中央付近ではオーケストラが奏でる音楽に合わせ大勢の人間がダンスを踊っている。それを見てレナードとテオドールがルゥ達に踊ってきてはどうかと勧める。 テオドールは自身達をおじさんと言ったが実のところダグやイルダ、ファーネスは二人よりもはるかに歳上であるし、獣人にしては小柄で少年のような雰囲気を持つカナタですら40歳で実はテオドールと同い年である。しかしその事を伝えるのは今でなくても良いだろう。 「それでは獣人のお嬢さん、よろしければ俺と一曲踊ってくれないだろうか」 「あら、王様が私と踊ってくださるの?」 エリックがファーネスを誘い中央へと歩いていく姿を見送りながらダグとイルダ、カナタは笑いを堪えるのに必死であった。 「聞いたか!今ファーネスをお嬢さんと言っていたぞ!」 「実際は100歳だってのに!あの王様よりも3倍以上歳上なんじゃないか!?」 「二人とも、ファーネスに聞かれたら怒られるぞ!」 小声であるが元々の声がでかいダグ達の会話は中央へ向かって歩いているファーネスにも聞き取れたようで、こちらを睨みつけている。確かに年齢としてはこの場にいる人間の誰よりも上かもしれないが、ファーネスの美しさはどの国の貴族のご令嬢達にも引けを取らない。 「年齢など関係ないだろう。お前らはそんなんだからモテないんだ」 ノエルが馬鹿にするように鼻で笑う。それに文句を言おうとしたダグ達だが、ノエルの周囲に数人の女性が集まっていることに気づき口を閉じた。きっとダンスの誘いで集まっているのだろう。 ノエルこそ今この場にいるもの達の中で最高齢だと言えるが、見た目は高く見積もっても30歳前後。しかもその整った顔とスラリと高い身長といい、その洗礼された立ち振る舞いといいどうしても人々は目を奪われる。何十年も人里離れた谷で暮らしていたはずなのに、随分と女性の扱いに慣れている。

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