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麗しの王

「あ、あの!」 ノエルもダンスをしに女性を引き連れ中央へと行ってしまった。それを見送っていた所でルゥ達の元へ一人のご令嬢がやって来た。 「あなたは・・・」 「お久しぶりですレジナルド様」 それは騎士団長時代に何度もレジへとアピールを行っていた貴族のご令嬢であった。 頬を赤らめて緊張しているのかその指先はドレスの袖をスリスリと擦っている。以前であれば彼女の立場も考え、レジの方からダンスへと誘ったりなどもしていた。が、今はルゥがいる。彼女には申し訳ないがそろそろキッパリと断ろうとレジが口を開こうとした。 が、その言葉はレジの口から出ることは無かった。 「あの!ルーファス様!よろしければ私と踊っていただけませんか?」 「・・・は?」 キラキラとした瞳でルゥを見つめる彼女の顔は、以前までレジに向けていた表情以上のものであった。 「俺はあまりダンスは得意ではないぞ」 「全然構いません!よろしければ私がお教えします!」 「え、ちょ・・・」 最早レジの事は視界にすら入っていないのかルゥの手を取り強引に連れていこうとする。若干困った様に眉を垂らしつつも、大人しく彼女に連れていかれるルゥの背中をレジは呆気に取られたまま見送った。 「ひゅ~っ!やっぱルゥはモテるな!」 「あの子もなかなか行動力があるね」 「やられたなぁレジ!」 感心したように声を上げながらガハガハと笑うダグがレジの背中を叩く。しかしレジは依然、呆気に取られた表情のまま中央へと歩いていく二人の姿を見ている。かと思いきや、バッと勢いよくダグの方へと振り返った。そして、 「あのお嬢さん、俺に声を掛けてきてた時よりも活き活きしていたぞ!?」 「ガハハ!!!そりゃ残念だな!!騎士団長様もルゥには完敗ってわけだな!!!」 元々彼女に特別な感情などは持っていなかったが、ここまでわかりやすく乗り換えられてしまうと多少なり落ち込む。そんなレジの姿にダグ達は大笑いだ。 レジの見た目は普通に整っている部類に入るが、やはりルゥやノエルと比べてしまうと平凡に見えてしまう。むしろ二人と並んで見劣りしない者の方がなかなかいないのだが。 ノエルやルゥ、ファーネスが中央で踊る姿を見て、周囲にいた者達がちらほらと声を掛け始めた。皆獣人達に興味津々でチャンスを窺っていたのだ。 今までどのように生活していたのか、今はどのような暮らしをしているのか、獣人の力とは話に聞く通りのものなのか、人との違いはどんなことがあるのかなど様々な疑問を投げかけられる。 初めは恐る恐るだった者達も獣人達の気さくな雰囲気に徐々に緊張は解け、気付けば彼らの何物にもとらわれない自由な振る舞いに魅せられる程だった。 何人か獣人達の力を自らの利益の為に利用すべく声を掛けてきた者達がいたが、ルゥ達は相手にしなかった。何より獣人達に彼らの要望に見合うだけの見返りがない。 「残念ながら俺らは金も地位も興味がないんでなぁ、そういった話にも興味が無いんだ」 「ルゥの傍で生きていけること以上に望むことなんて私達にはないの」 「俺達には確かにあんたらにはない力があるかもしれないが、その力の使い所は自分達で決めるさ」 獣人の力が役に立つなら協力しないつもりは無い。だが、それは誰か個人の利益の為となると話は別である。まして金や地位を条件に出してくるような相手に協力したいと思えなかった。 それらの話とは別にナラマから話を聞いたらしいエリックやいくつかの国の国王達から、ルゥが現在参加しているような調査隊や災害時などの獣人の派遣の話を持ち掛けられた。人間では難しい場所や状況で獣人達の手が必要な時にのみ、里を離れてそれぞれの国に赴くというものだ。 勿論そういったことであれば、ルゥ達も協力したいと思う。今まで隠していた力だ、これからは表立って発揮していきたい。 そしてその報酬として様々な条件を提案されたが、ルゥ達は多少の賃金と旅商人の商売ルートに獣人の里を追加してもらうことを希望した。 「旅商人の運んでくる商品は面白いものが多いからな!」 「そうそう!その時々で品が変わるからわくわくするんだよ!」 「カルディアからの商人がよく運んでくるスパイスなんて、私大好きよ」 初めはそんな条件でいいのかと戸惑っていた国王達だが獣人側の喜んだ様子に納得せざるを得なかった。旅商人はその国ごとの名産物などを販売して回る。その為なかなか見ないような他国の品が手に入ることで国民の間でも人気があった。 そして最近まで色々な国に散り散りになっていた獣人達にとっては、それまで住んでいた地域の使い慣れた品を手に入れる機会にもなる。 何はともあれ舞踏会は想像以上に平和に終了を迎えた。他国の王とは明日、交易についての対談などがある。ルゥも新たな同盟国として参加する予定だ。

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